17戦目 可愛い写真対決

 シェイク早飲み対決を終えると僕らの席には空のカップしか残っていない。

 他の席に座る学生達はポテトとドリンクで数時間は粘ろうとしている。


「せっかくだからハンバーガーでも食べようか。僕が奢るから」

「う~ん。夕飯食べられなくなったらイヤだな~」


 時刻はすでに16時を回っている。

 たしかに今ハンバーガーを食べるとお腹が微妙な感じになりそうだ。


「それならナゲットは? それくらいだったらいいでしょ」

「うううう……そうね。それくらいなら……」


 よかった。さっきの間接キスの件もあって奢られっ放しはなんか心に引っ掛かる。

 エリスの気持ちは一旦置いておいてこれでチャラにしておこう。


「でもなんで奢り? さっき勝ったのは星夜じゃない。はは~ん。さては私に恩を売って負けてもらおうっていう魂胆ね?」

「そんなことしなくても僕は自力でエリスに勝てるから」

「もう! 早く買ってきなさいよ!」


 ほっぺをぷくーっと膨らませたエリスに見送られて、僕は1階のカウンターへと降りていった。

 チラチラと他の席から視線を感じたのは気のせいではないはずだ。

 カップルの痴話喧嘩だと思われていたら嬉しいな。




「さ、どうぞ」


 5個入りのナゲットをエリスの前に差し出す。

 ソースは老若男女問わず食べられそうなバーベキューを選んでおいた。


「ふっふっふ。私、また新しい対決を思い付いてしまったわ」


 待っている間に何かを調べていたのか、口元を手に持ったスマホで隠しながら不敵な笑みを浮かべている。

 ろくでもないことだというのは予想が付いた。


「一応聞いておこう」

「むふふ。その名も、可愛い写真対決よ!」

「また判定が難しいそうな勝負を……」


 タイトル通りどちらの写真がより可愛いかを競うんだろうけど、可愛さの尺度なんて千差万別だ。

 もちろん多くの人が可愛いと思う写真だって世の中には存在する。

 だけどそれに優劣を付けるとなれば話はまた変わってくる。


「安心しなさい。私の圧勝で終わるから」

「……エリスがそういうことを言う時っていつも負けてるけどね」


 学習していないのか何度でも挑戦する強いハートの持ち主なのか、僕としては後者であってほしいけどたぶん前者なんだろうな……。

 

「過去は過去。今は今よ。ふっふっふ。私が持つ最強に可愛い写真に震えるがいいわ!」


 テーブルの上にドンと置かれたスマホには2匹の子猫が寄り添って眠る写真が映し出されていた。

 

「ただでさえ可愛い子猫が2匹。その子猫が1番可愛く見える寝顔なんだからこれこそ最強の可愛さよ!」


 自分の功績でもないのに、どこかの子猫の可愛さを熱弁するエリス。

 指でツインテールの先をくるくると回してすでに勝った気でいるようだ。


「うん。たしかに可愛いね」

「でしょう? 星夜がこの子猫よりも可愛い写真を持ってるなんて到底思えないわね」

「そんなこともないさ。ほら」


 水戸黄門の印籠のようにエリスの目の前にスマホを差し出す。

 

「んなっ!?」


 僕が1番可愛いと思う写真を見せたはずなのにエリスは口と目を大きく見開いて絶句してしまった。

 あまりに可愛すぎてビックリさせちゃったかな?


「い、いつ撮ったのよ!?」

「ん? 朝じゃない? 詳しい時間はエリスママに聞いて」

「ママなにしてんの!?」


 エリスが大声を出して机を叩くものだから周りの視線が僕らに集中する。

 さすがにちょっと恥ずかしくなり、みなさんに軽く頭を下げた。


「僕は子猫よりもエリスの寝顔の方が可愛いと思うんだ。エリスだってそうだろ?」


 幼馴染が迎えに来てもなかなか起きてこない娘にしびれを切らしたエリスママが撮影して送ってくれた寝顔写真。

 ホーム画面に設定して個人的に満喫するにとどめていたのに、まさかこんな勝負に挑むことになるなんて思いもしなかった。


「ぐぬぬ……これで私が負けを認めなかったら……」

「エリスは子猫に負けたことになるね。さあ、どっちを選ぶ?」

「…………星夜の勝ちでいいわ」

「ありがとう。やっぱりエリスは宇宙一、銀河で一番可愛いよ」

「だからそういうのをやめなさいってば!」


 顔を真っ赤にしてエリスが叫ぶ。ツインテールも逆立ちしそうな勢いだ。

 さすがに2度も注目を集めてしまうといたたまれないのでナゲットをささっと口に放った。


「せめてもの情けでエリスは3つ食べていいよ」

「くぅ~~~悔しい」


 口ではそう言いつつモグモグしているうちに徐々に笑顔を取り戻していく。

 こういう単純なところも可愛いな~。


 大宮エリス、17敗目。

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