15戦目 お弁当対決

「星夜、お弁当対決よ!」


 昼休みになるなり僕の席まで駆けつけた幼馴染にお弁当対決を申し込まれた。

 学食のメニューは充実しているけど生徒数に対して座席数が少ないので僕とエリスは基本的にいつもお弁当を作ってもらっている。

 母さんには感謝しかないこのお弁当で一体何を争うというのか。


「どっちのお弁当が美味しそうかで勝負よ!」

「まあそんなことだろうとは思ったけど、それはエリスが自分で作ったお弁当なの?」

「そ、そんなのは些細な問題よ。星夜だって自分で作ってないでしょ?」

「うん。母さんに作ってもらってる」


 昔からずっと使っているニチアサアニメのランチシートに包まれたお弁当を持ったままエリスは僕から視線を逸らす。

 やっぱりこのお弁当はエリスママが作ったものなんだな。


「これじゃあ僕とエリスの対決じゃなくて、エリスママと母さんの対決に……」

「それもまあ一興ということで!」


 お弁当を机にバン! と起くと、自分の席からイスまで持ってきた。

 この小さい机にお弁当を2つ並べて向かい合って食べる姿は周りから見たら彼氏彼女の関係なんだろうな。

 あえて言わないでおくけど心は踊っていた。


「それで判定はどうするの? お互いに主張がぶつかり合うと思うんだけど」

「問題ないわ。私の圧勝だから」

「うん。エリスが勝ったとしてもそれはエリスママの功績だよね?」

「さ、勝負を始めましょう」


 都合の悪いことは聞き流してエリスはそそくさとお弁当を広げ始める。

 その小さな体に対してお弁当箱は結構大きく、さらに重厚感もある。

 お弁当の中身をいつもより豪勢にしてもらったからこそエリスはこの勝負を挑んだに違いない。


「ふっふっふ。さあ、見なさ……い?」

「あぁ……」


 大きいエビフライやローストビーフがお弁当箱の中で圧倒的なオーラを放ちつつ……散乱していた。

 ぎゅうぎゅうに詰めるのではなく綺麗に盛り付けたからこそ何かの拍子に散らかってしまったんだろう。

 例えば、さっき机に勢いよく置いた時とか。


「えーっと……」


 おかずの豪華さでは絶対にエリスに勝てない。そう確信せざるを得なかった。

 だけど自分のお弁当箱を開けると綺麗に唐揚げや卵焼きが詰め込まれていて、何か特別なおかずはないのにいつもより美味しそうに見えた。

 母さんありがとう。


「まあ、今回は星夜ママに免じて勝ちを譲ってあげるわ」

「ありがとう。母さんに伝えておくよ」

「……うん。あ、おいし」

「散らかっても味は変わらないからな」


 料理は見た目も大事だけど一番は味。

 毎日お弁当を作ってくれる母さんに感謝しつつ、僕らは昼休みを満喫した。


 大宮エリス、15敗目。

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