13戦目 髪の長さ対決
月曜日。またエリスと一緒に学校に行けると思えば憂鬱な気分なんて簡単に吹っ飛ぶ。
いつものように迎えに行くと珍しくインターホンを鳴らしてすぐに本人が現れた。
「今日も私から勝負を申し込むわ」
「いいよ。受けて立つ」
サラサラのツインテールを春風になびかせる姿はまさに美少女という言葉を体現していた。
「今回は100%私が勝つわ。なんで今日まで気付かなかったのかしら」
「エリスが勝負を仕掛ける時っていつも自信満々だよね。一体どこから湧いてくるのやら」
やれやれとため息と付いてもエリスは挑発に乗ってこない。
何か悪いモノでも食べたのか? いや、エリスママに限ってそんなことは娘にさせない。
本当に自信があるということなのか?
「私が星夜に勝てるもの。それは……髪の長さよ!」
ツインテールを手に持ちブンブンと振り回すその背後には『ドーン!』というエフェクトが見えるようだ。
ふむ。確かにそのツインテールの長さを超える頭髪を僕は有していない。
「ふっふっふ。どう? 言葉も出ないかしら? 降参も受け入れてあげるわよ」
「いやエリス。僕にツインテールはない。つまり勝負として成立しない」
「なら星夜の不戦ぱ」
「前髪ならお互いに公平な勝負になると思うんだけど、どうだろう?」
エリスの言葉を遮るように早口でこちらのルールに持ち込む。
多少は考えたようだけどこちらもすでに対策は練っているのだよ。
「カラオケ対決は私の不戦敗だったのに!」
「あれはお互いに勝負の土俵がなかったパターンだろ? それとも前髪には自信がないとか?」
「だ、だって前髪だと……」
エリスは自分で前髪を整える。
そしてそれは大抵日曜日に行っている。
体温対決に負けた日も例外ではなかったようで、昨日よりもほんの少し前髪が短くなっている。
一方僕は前回の散発から一か月以上経っていた。
どうやら髪の神様は僕に味方してくれているらしい。
「あんなに自信満々だったんだから前髪の長さで勝負してくれるよね? 僕は知ってるよ。エリスは正々堂々と戦う勇敢な戦士だって」
「わ……わかったわよ」
「さすがエリス。僕の自慢の幼馴染であり片想いの相手だ」
「恥ずかしいことを堂々と言うんじゃないわよ」
頬を赤らめ視線を逸らすエリス。
こうやってすぐ僕に言いくるめられるんだから。まったくからかいがいのある幼馴染だ。
「僕は前髪が目にかかってるけど、エリスはその大きくて綺麗な瞳がよく見えるね」
「ふん! 私の負けよ。だけど星夜はさっさと髪を切ることね。余計根暗に見えるわよ」
「うん。そうするよ」
エリスが持ちかける対決の中で厄介な部類に入る髪の長さをクリアしたんだ。これで心置きなく散髪に行ける。
大宮エリス、13敗目。
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