12戦目 体温対決

「星夜、起きなさい!」


 近所のカラオケ店は潰れ、遠出するにはあいにくの天気となっている日曜日。

 たまにはゆっくり布団の中で過ごそうと考えていた矢先に心地良いお馴染みの声で起こされた。


「……おはよう」

「ふふ。今日が早起き対決じゃなくてよかったわね」


 枕元に置いてある時計を見ると時刻は午前8時。

 平日なら遅刻確定の時間だけど今日は日曜日。

 スーパーニチアサタイムまであと30分もあるじゃないか。


「頑張って早起きしたかいがあったわ。寝起きの星夜、敗れたり!」

「人を指差しちゃいけないって習わなかったか?」


 ビシッと僕を人差し指で差してキメ顔のエリス。

 一体なにが彼女を駆り立てるのか妙に自信に満ち溢れて目を輝かせている。

 ちょっと状況を掴めないでいるとピピピという電子音が部屋に響いた。


「私の結果が出たようね」


 そう言ってエリスは腋に挟んでいた体温計をおもむろに取り出した。


「36.6℃。いい感じにあったまってるわね」

「体温を測る時にそんなに騒いで良かったのか?」

「作戦よ作戦。さあ星夜。あんたも体温を測りなさい。その寝起きの体のね」


 エリスは一旦体温計をケースに戻してリセットする。

 そして、それをそのまま僕に手渡した。

 まだほんのりと暖かい先端はエリスが温めたものだと考えるとほんの少し気恥ずかしい。


「早起き対決は不意打ちで負けたからそのお返しよ」

「そうか……母さんもよくこんな朝早くからエリスを招き入れたな」

「ふっふっふ。日頃の行いがいいからね」

「……」

「ちょっと! 黙るのはやめなさいよ」


 エリスはほんのちょっと涙目になっていた。

 実際、素行は良いのでエリスの言うことはあながち間違ってはいない。

 むしろ問題は年頃の息子がまだ寝ているのに女の子を部屋に入れた母さんの方だ。


 そうこうしているうちにピピピと測定完了のお知らせだ。


「さあ、何度何度?」

「まあそう焦るな。36.7℃。まあこんなもんか」

「はあ!? 星夜あんた、実はさっきから起きてたなんてこと」

「ないよ。せっかくゆっくり寝られると思ってたのに」

「くう~~~~」


 エリスは僕から体温計を取り上げると変な鳴き声を出しながら部屋を後にした。

 幼馴染が起こしてくれるなんて理想のシチュエーションなのに、なんか妄想してたのと違ったな。

 

 大宮エリス、12敗目。

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