8戦目 にらめっこ対決

 漢字テストは無事に100点満点を取ることができた。

 僕が99点でエリスが100点を取る可能性だってある。

 確実に勝つためには満点しかないと思っていた。

 2人とも100点だったら引き分けになるんだけど、その時にルールは特に決めていない。

 そうなった時にうまくエリスを言いくるめよう。


「ま、まあ。100点でも1勝は1勝にしかならないし?」

「ふーん。まだエリスも100点で引き分けの可能性もあるんだけど?」

「ぐぬっ」


 僕はエリスが0点を取っても怒りは……するかもしれないな。さすがに。

 学部はそれぞれの進路があるにしろ、できれば偏差値の高い大きな大学に2人で進学したいと僕は思っている。

 だから今のうちからそれなりの成績をおさめてほしいんだけど……。


「星夜の勝ちならそれでいいじゃない。ね? おめでとう!」

「そういう訳にはいかないな。エリスの学習状況をきちんと把握しないと」

「なんでそういう話になるの!?」


 今にも泣きだしそうな顔で答案用紙を体の後ろに隠す。

 これじゃあまるで僕が悪者みたいじゃないか。


「よし。こうしよう。今からにらめっこ対決をする」

「へ?」

「笑ったら負けっていうアレだよ」

「それは知ってるけど、なんで今?」

「エリスの泣き顔は見たくない。笑顔が可愛いから」

「なに言ってんのよ!」


 目は涙でほんの少し潤んでいるけどいつもの調子に戻ってきた。

 あともう一押しで幼馴染の笑顔を取り戻せる。


「言っておくけど私、にらめっこは強いわよ?」

「知ってる。だからこそエリスを負かす意味がある」


 エリスの必殺技・ツインテール魔人と使われたら今回こそ僕が負けるかもしれない。

 ツインテールをあんな風に使うなんてにらめっこのルールを逸脱した反則技だ。

 だけどその反則技に耐えてエリスを笑わせることができれば、完全に僕の勝利と言える。


「いくよ。にらめっこしましょ」

「あっぷっぷ!」


 エリスは両手でツインテールを掴み、毛先を鼻の穴につっこむような動作をした。

 その美しい顔立ちとのギャップとはしたなさが僕の笑いのツボを刺激する。

 でも、この勝負が始まる瞬間まで何度も脳内でイメージした光景だ。

 ギリギリ笑いを堪えられている。


 一方、僕はほっぺを引っ張り白目を剥くという単純な戦法だ。

 こんなことでエリスが笑うとは思えない。

 ちくしょう。高校生にもなって何をやってるんだ。

 そんな羞恥心を捨てて僕はさらに舌ベロを出した。


「……ぷっ! あっはっは。変な顔」

「よし! 僕の勝ちだ」


 勝利の余韻を味わう間もなく僕はすかさず床に落ちたエリスの答案を拾い上げた。

 にらめっこをすればエリスは間違いなく両手を使う。

 その確信があったから僕は負けるリスクを覚悟でにらめっこ対決を挑んだ。


「ちょっ! 待って!」

「うわぁ……酷いなこれは」


 エリスの名誉のために点数は伏せておくけど、これが定期テストなら余裕で赤点だ。

 

「ママがイギリス人だから仕方ないじゃない」

「お父さんは日本人だろ? なんなら生まれも育ちも日本だし。英語だってできないし」

「……はい」


 幼馴染を笑顔にしたのも束の間、今度はしゅんと縮こまらせてしまった。

 でもこれは本人が悪い。

 これに懲りてちゃんと勉強してくれると嬉しいんだけど……。


 大宮エリス、通算8敗。

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