7戦目 レースゲーム対決
今日はお互いに部活が休みだったのですぐに帰宅した。
家が隣同士とは言え、高校生の男女が一緒に帰る時点で恋人みたいなものじゃないかと言われたことがある。
僕はこれこそが、お馴染みが負けヒロインになる原因だと思っている。
ウサギとカメに出てくるウサギのように、お馴染みはゴール直前で油断している隙に後から現れたカメに良いところを持っていかれてしまう。
だから僕はエリスを負けヒロインにしないように手を差し伸べたのに、僕の幼馴染は100回負けたら恋人になるという遠回りを選んでしまった。
こうしてる間にも僕に想いを寄せるヒロインが現れるかもしれないんだぞ?
部屋に着くとベッドにバタンと倒れ込んだ。
漢字テストを何度も見直しをして、エリスに言われた名前の書き忘れにも注意した。
たかが漢字の小テストにあまりにも神経をすり減らしてしまい疲れ気味のところにエリスからのメッセージが届く。
―久しぶりにこれをやるわよ!
一緒に送られてきたテレビ画面の写真には二人でよく遊んだレースゲームの映像が映し出されていた。
―今から?
―当然! 今日という日はまだまだこれからよ
―早く来なさい
―はいよ
インターホンを鳴らすとエリスが出迎えてくれた。
僕は着替えるのが面倒でブレザーを脱いだだけの制服姿なのに、エリスはしっかりと着替えを済ませている。
フリルがあしらわれたワンピースに桜色のカーディガンを羽織う姿はまるで人形だ。
「ほら、あがってあがって」
「おじゃまします」
こうやって気軽に部屋に招き入れてくれるのは僕を信頼しているのか、男として見てないのか、あるいは男として見ているからこそなのか。
きっと幼馴染として思ってないからなんだろうけど、中学以来にお邪魔する大宮家の内部は以前のような自宅感を覚えなくなっていた。
「窓越しに来れたらめちゃくちゃ近いのにね」
「無理をすれば通れなくはないだろうけど……ちょっと恐いな」
エリスの部屋に入ると窓からは見慣れた景色、自分の部屋が見えた。
この部屋だって毎日見ているはずなのに、ちょっと視点が変わるだけでまるで別世界のように感じる。
「ちょっと久しぶりよね。こうやって星夜が来るの」
「まあ、高校生になるとなかなかね」
エリスが舞浜先輩に夢中になっている時も僕はエリスが好きだった。
そんな状況でこの場所に来たら頭がおかしくなりそうだったので距離を置いていたんだ。
「さ、いつまでも感傷に浸るのはよくないわ。私には勝利の未来が待ってるんだから」
「モリカーか。エリスの勝率はどれくらいだったっけ?」
「……過去のことは忘れましょう。今はこの1戦が全てなんだから」
新しいゲーム機が出る度に新作も制作されるレースゲーム。
ファンタジーなカスタマイズやアイテムが絡むので初心者でも上級者に逆転できる可能性がある。
「なるほど、勉強もしないでゲームの練習をしていたわけか」
「言い方! 私だって負けヒロイン呼ばわりは嫌なんだから」
僕と付き合えば負けヒロインから脱却できるのに。という言葉は胸の奥にしまった。
「言っとくけど。もう星夜が知ってる私じゃないわ。相当うまくなってるから」
「それは楽しみだ。対戦相手が弱いと燃えないからね」
「余裕でいられるのも今のうちよ」
フンッ! と鼻息を鳴らながらコントローラーを僕に手渡し、エリスも準備完了だ。
同じテレビ画面を見るためには当然2人が並んで座る必要があるので、遠慮なくエリスの横であぐらをかく。
正座するエリスの太ももに僕の膝が触れそうになり咄嗟に足を自分の方に寄せた。
「…………」
「…………」
「……え?」
「え?」
一向にスタート画面から進まない画面を2人で見つめ続けていた。
30秒くらい虚無の時間を過ごしてしまった。
「エリスがスタート押さないと始まらないんじゃない?」
「なに言ってるの? 1Pは星夜だから早く始めなさいよ」
こういうのって持ち主が1Pになるのが普通じゃないか?
たしかに前は僕が1Pになっていろいろルール設定とかしてたけど。
「本気で僕に勝てると思ってるの?」
「当たり前じゃない! 1Pを任されたくらいで調子に乗るんじゃないわよ!」
人に主導権を委ねておいてその自信はどこから湧いてくるのか、薄い胸をドンと突き出しドヤ顔を浮かべている。
まあ、自身と腕前は必ずも比例するわけではなくて……。
大宮エリス、6敗目。
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