5戦目 早寝対決
半分ズルみたいな早起き対決に勝利した日の放課後、今度はエリスから勝負を持ちかけられた。
「今朝はまんまとやられたけど、この勝負ではそうはいかないわ」
「やる気だね。そんなに早く100敗したいのかな?」
「勝つ気でやってるのよ私は!」
エリスは両方の拳を天に突き上げ高らかに宣言する。
少しでも自分を大きく見せようとする姿がいじらしく、可愛いなと思う。
「それでどんな対決なんだい?」
「ふっふっふ。早起きでは負けたけど、早寝ならどう?」
「ほう」
思わず感嘆のため息が漏れた。
家が隣同士で、お互いの部屋が見えるような位置にあるためカーテン越しでも明かりが消えるのはなんとなくわかる。
小学生の頃から身体的な成長が見られないエリスはいつも22時をちょっと過ぎたあたりで寝ているようだ。
一方、僕は毎日の復習があるので早くて23時に床に着く。
何も対策をしなければ早寝対決はエリスの勝利というわけだ。
「これは僕が圧倒的に不利だね」
「そうよ! 真面目なあんたは復習せずに寝るなんてできない。それに比べて私は9時にだって眠れる自信があるわ」
薄い胸をドンと突き出し自慢げに語る。
寝てない自慢も大概だけど、高校生にもなって9時に寝れる自慢をされてもリアクションに困ってしまうな。
「逃げるなんて許さないわよ。私の得意分野でも負かす自信があるんでしょ?」
「もちろんだよ。早寝対決も僕が勝つから」
「そう。楽しみにしてるわ」
高笑いを浮かべながらエリスは教室をあとにした。
たしか今日は家庭科部の活動があるんだっけか。
「じゃあ僕も部活に行くか」
一応所属している文芸部では文化祭に向けて冊子を作るのが習わしになっている。
ただ、まだ新学年が始まったばかり。
新入生も入ってくるかわからないこの時期から準備するものではないので、今は各々好きな本を読んで過ごしている。
「早寝対決ねえ」
そんな独り言をぼそっとつぶやいて僕はエリスにLINEを送った。
―さすがに料理中には寝ないよね?
春の日光が差し込むぽかぽかした部室の中で本を読んでいたら、そりゃあ眠くなるよね。
エリスは部活で何を作るか気になるところではあるけど、今はまず確実に勝利を積み重ねていくことが大事だ。
文芸部の部室に向かいながら、さらに追加でメッセージを送る。
―おやすみなさい
どちらのメッセージにも既読は付かない。
向こうも移動中か、準備中か、とにかくスマホを見るどころではないらしい。
さて、本の続きも気になるけど今日のところは睡眠時間に充てるとしよう。
大宮エリス、5敗目。
***
まだ窓の外は明るく、運動部の元気な声も聞こえている。
時間を確認するためにスマホのロックを解除すると一件の通知が目に入った。
―ちょっと! どういうこと!?
エリスの怒った顔が目に浮かぶようだ。
1時間ほど眠ってスッキリした僕の頭は幼馴染をイジることでいっぱいになっていた。
―僕の勝ちってこと
向こうはまだ部活中だろうからなかなか既読が付かない。
こうやって彼女の反応を待つ時間もまた愛おしい。
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