2戦目 苗字対決

 僕とエリスの対決が始まって2日目。

 別に毎日勝負をする必要はないし焦って負けるのは避けたいところだけど、とにかく100回エリスを負かすためにはどんどん戦わないといけない。


「おはようエリス」

「おはよう。ふっふっふ。今日は私から勝負を仕掛けさせてもらうわ」

「ほう? 受けた立つぞ」


 大人にとっては当たり前のことをあたかも世紀の大発見のように話す子供みたいなエリスを前にして、僕も少し演技じみたリアクションを取ってみた。

 腕を組んでエリスを見下ろすのは我ながら魔王みたいだと思う。


「ふん。どうせ私にしかイキれないくせに」

「うっ……」


 幼馴染からの鋭い指摘に思わず魔王はひるんでしまった。

 ちなみにこれは僕の負けにはカウントされない。ひるんだだけだし。


「で、どんな勝負なんだ?」


 エリスは単純だから話を逸らせばすぐに忘れてしまう。

 持ち掛けられた本来の勝負ごとに話を戻す。


「ふっふっふ。聞いて驚きなさい。その名も、苗字対決よ!」

「……え?」

「だーかーらー、苗字対決だって。どっちの苗字がすごいか対決するの」

「どうやって勝敗を付けるんだ?」

「すごい方が勝ちよ」

「具体的には?」


 僕からの止まらない追及にエリスはぐぬぬっと歯ぎしりをした。


「僕は目白でエリスが大宮。すごいのは明らかに目白だけどね」

「はー? 大宮よ大宮。埼玉県を代表する都市に決まってじゃない!」

「いやいや、だって埼玉(笑)でしょ? こっちは東京だぞ」

「星夜、全埼玉県民を敵に回したわよ」

「そんなこと言ってもエリスだって都民じゃないか」


 23区外とはいえ東京は東京。

 埼玉をネタにした映画を見た時はゲラゲラ笑ったものだ。


「ちなみに目白は高級住宅街らしいよ。すごくない?」

「ぐぬぬ……」


 自分の苗字と同じ駅名があると知った時にちょっと検索したことがあって、その時に目白が高級住宅街らしいということを知った。

 僕が知ってる目白情報はこれくらいだけどエリスには効果抜群のようだ。


「お、大宮は大きい宮よ。大きい方がすごいに決まってる」

「それをエリスが言っちゃうか」


 フッと小柄な幼馴染を見下して笑う。

 エリスの大きいところは僕みたいな陰キャを受け入れてくれる人間としての器くらいだ。


「目白なんて逆にしたら白目じゃない。やーい! 白目白目」

「逆にしたらっだろ? それはもう別の言葉であって目白にはノーダメージだ」

「うっ!」

「それに僕は知ってるよ。小さくても素敵な女の子を」

「え? それって」

「負けを認めたら答えを教えてあげるけど、どう?」

「ど、どうせ私でしょ? わかってるんだから」


 フンっ! と腕を組んで顔をそらしたものの、その目はチラチラと僕を見ている。

 正解はエリスで当たりだから完全に僕の負けなんだけど、そう簡単に認めるわけにはいかない。


「まあ、ちゃんとして正解を知らないのもモヤモヤするし負けを認めてあげてもいいわ」

「うん。正解はエリスだよ。ちゃんと負けを認めるところも素敵だ」

「うっさい」


 口では悪態を付きながらも頬を赤く染める、そんな姿も可愛い。


 大宮エリス、2敗目。

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