だれが負けヒロインよ!

くにすらのに

1戦目 じゃんけん対決

 負けヒロイン。恋愛が成就しなかった女の子を指す言葉だ。

 そして、負けヒロインの代名詞とも言える存在が幼馴染である。

 僕、目白めじろ星夜せいやはずっとその幼馴染に恋をしている。だけど彼女は僕に恋愛感情は抱いていないだろう。なぜなら……。


「フラれた……」

「まあ、なんだ。エリスは頑張ったよ」

「うん」


 大宮おおみやエリス。イギリス人の母と日本人の父を持つハーフで、僕が恋する幼馴染。

 イギリスの血筋がそうさせるのだろう。白い肌を綺麗なブロンドヘアは女子から羨望の眼差しを向けられている。

 ただし、体型はまるで小学生のように小さく、彼女の母親と比べるのが失礼なほど胸は真っ平だ。

 その幼さに輪をかけるように髪をツインテールに結んでいるのが可愛い。


「はぁ……まさか舞浜先輩にあんあ巨乳の彼女がいたなんて」

「そんな噂、まったく聞いたことないもんな」

「あはは……私の青春は終わったわ」


 高校2年生になってまだ数日。

 入学当初から一方的に好意を寄せていた先輩に1年越しに告白して、フラれた。

 高校生活はまだ2年近く残されているにも関わらずエリスは自らの青春を終わらそうとしていた。

 片思いしている相手が失恋した。もしかしてこれってチャンスなんじゃ? そんな自分本位の考えが僕の口をおかしくてしまった。


「まあ幼馴染は負けヒロインって言うしさ」

「だれが負けヒロインよ!」


 エリスの怒りは金髪ツインテールを逆立ちさせそうな勢いだ。

 ほっぺを膨らませて怒っているアピールをする姿もまた可愛い。


「フラれたんだから負けヒロインだろ? 仕方ないから僕が勝ちヒロインにしてあげるよ」

「はあ? なんで星夜にそんなことされないといけないのよ」

「それはほら、幼馴染の腐れ縁というか、昔から世話になってるお礼というか」

「だいたい幼馴染が負けヒロインっていうなら、星夜にフラれないとおかしいじゃない!」


 エリスは話のわかる幼馴染だ。僕がどんどんオタクの道に進んでいってもそれを理解してくれる。

 負けヒロインの意味を瞬時に理解したからこそ、こんなツッコミもすぐに返してくれる。

 そんな幼馴染を僕が好きにならないはずがない。


「そもそもなんで上から目線なのよ! 告白したことも、されたこともない陰キャのくせに」

「こここここ告白くらいされたことあるわ!」

「へえ? いつ、どこで、誰から?」

「……ごめんなさい」

「ふん! 恋愛においては私の方が圧倒的に上ね。告白する勇気と、フラれても立ち上がるメンタルを持ち合わせているんだから」

「それ以外は僕に全負けのくせに」


 思わずボソッとつぶやいていしまった。だって事実だし。

 陰キャなので運動はあまり得意ではないけど、それでもエリスに比べたら動ける方だ。

 それに勉強に関しては僕がいつもエリスに教えているし、ゲームだってほぼ僕が勝つ。

 1回告白経験があるくらいでマウントを取られても困る。


「私は伸びしろの女なの。そんなに私を負けヒロイン扱いするなら100回くらい負かせてみなさいよ」

「ほう? 僕が100回勝ったら負けヒロインと認めて、僕の、か、彼女になってくれるか?」


 初めはカッコつけてみたものの、いざエリスが自分の彼女になる可能性を掴みかけると緊張が口ごもってしまった。

 自分の気持ちを正直に出せず、フラれて欲しいと思いながら恋を応援してきた1年間の鬱憤を今ここで吐き出す。


「負けヒロインでもあんたの彼女でも何でもなってやるわよ。ただし、勝負はどちらが仕掛けてもOK。星夜の得意分野だけで戦ったら負けるに決まってるもの」

「その条件で問題ない。どんな勝負でもエリスを負かすから」

「私が1回でも勝ったら終了ね。その時はそうね……一生奴隷にしてあげるわ」


 腕を組んで邪悪な表情を浮かべるものの恐怖をまったく感じない。

 むしろ子供が悪役に憧れて背伸びしているみたいで可愛いとしら感じてしまう。

 こんなエリスの奴隷になれるなら……いや、ダメだ。俺はエリスと対等な彼氏彼女になりたいんだ。

 目の前に誘惑に負けずに100回勝負に勝ってやる!


「んじゃまず、じゃんけん」

「え? ちょっ」

「ぽん」


 何の前触れもなくじゃんけんを仕掛けた。

 超早口で唱えたじゃんけんにエリスは反応しきれず咄嗟にパーを出す。

 エリスは昔からパーを出すことを知っている僕は余裕を持って手をチョキの形にしてそっと差し出した。


「はい。僕の勝ち」

「ぐぬぬ……まあいいわ。1回負けたくらいで私の心は折れない」

「今までだって何回も僕に負けてきたもんな」

「そういう意味じゃないわよ!」


 両手を挙げて、キーッと威嚇する猿のようなエリスも可愛い。

 ちょっと卑怯な手だったとは思う。でも、僕は100回もエリスに勝たないといけないんだ。


「100回負ける前に僕の彼女になってくれてもいいんだよ?」

「絶対そんな風にならないから」


 僕の彼女になりたくないなら最初から勝負なんてしなければいいのに。

 こうやってすぐムキになって僕の相手をしてくれるところも愛おしい。

 背が小っちゃくて、貧乳で、ツインテールで、運動も勉強もゲームも苦手。おまけに憧れの先輩にもフラれてしまった負けヒロイン。

 だけど僕はそんな負けヒロインの幼馴染が大好きなんだ。


 大宮エリス、まずは1敗。

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