2019年3月13日
僕らの学校、私立平城学園高校は、卒業式が遅い。一般的には1月〜2月、遅くとも3月頭には卒業式が終わっているだろうが、僕らの学校の卒業式は3月半ばだ。一応進学校なので、後期まで受験が残っている人に配慮してらしい。全員一応受験が終わった段階で卒業式の予行などが行われるのはありがたいが、逆に言えば3月半ばになっても学校に行かなければならないのである。
朝学校へ登りながら、あれ?なんか今日人多いな?と思っていた僕だが、よくよく考えたら今日は卒業式の予行の日だった。通りでみんな来ているはずだ。
教室の前に着くと、案の定河合さんがいた。今日は雨なので、濡れた鞄や制服を乾かしているようだ。
「おはよう。今日めっちゃ雨やなぁ」
「あぁ、君か。おはよう。こんな日に限って親が送ってくれへんから、全身びしょびしょやよ」
「ほんまになぁ。地獄坂川やったもんな」
などと言いながら、僕も横で一緒に靴下などを乾かしていると、南畑さんが来た。
「まだ教室開けてないん?鍵取りに行こか?」
「えっありがとう」
彼女が鍵を取りに行ってくれたおかげで教室に入ることができた。彼女は僕とあまり接点がないが高2からクラスが一緒なのと世界史ができるのでそれなりに優しくしてくれる。僕は鍵を取りに行くのがあまり好きでない。めんどくさいからでなく、絡んでくる先生が嫌だからだ。
朝礼で卒業文集などを受け取り、僕の仲良し訳の分からん文集ばっかし書いてるな、と思いながら読んでいると菊くんが僕を呼んだ。
「どうしたん?」
「誕生日おめでとうやからこれ誕プレ!」
「えっいいん?ありがとう!」
ちなみに僕の誕生日は4月である。お互いまだ大学が決まっておらず、4月に会えるかわからないので先に渡してくれたらしい。僕に誕生日プレゼントをくれる数少ない友達、菊くんは本当に優しくていい人だ。
卒業式の予行練習は、滞りなく終わった。いや、正確には卒業式にだけ歌う新しい讃美歌をいきなり歌えと言われて誰も歌えなくてざわざわする、という事件が起きたが、まぁ概ね問題はなかっただろう。
予行練習が終わってから、僕らのクラスは比較的早く終礼が終わったので、他のクラスのみんなを待っていた。河合さんがひたすらいろんな人に寄せ書きを頼んでいたが、僕の仲良しは一切そんなことをしない。やっぱり淡白やなぁ、と思いながら待っていると、みんな終礼が終わったようでぞろぞろと集まってきた。
珍しく10人近く集まった上にお昼時だったので、小野寺さんが食べに行こう!と言い出しみんなでごはんに行くことになった。しかしこのメンツ、自由奔放他人に興味なし、ゴーイングマイウェイだらけなので、誰も統率をとれないしとりたがらない。さらには微妙な人間関係の上に成り立っているなんとも絶妙な集団なので、もう集団行動はほぼ不可能に近い。この集団より幼稚園児の方がまだ治安いい、と思いながらみんなの後をついて行っていた僕だが、人間関係の複雑さから果たしてこのメンツどう分かれるんやろか、と心配していた。
とりあえず宮ノ下さんはみんなにいじめられていた。これはいじりなので愛情の裏返しだ。気にしないでおこう。珍しく僕らと合流した内部の
そんなわけでこのグループ内だと、僕的には綾辻さんや丹波さんが彼女とおしゃべりしていてほしいわけだが、綾辻さんはずっと立花さんとボケツッコミを繰り返している。なんとか綾辻さんを葛城さんの方へ行かせようとしたが、全然離れない。なんでやねん。しまいには森刈さんにいじられはじめそっちにいってしまったので、僕の綾辻さんと葛城さんをくっつけよう作戦はどうしようもなくなってしまった。
ならば、と丹波さんの方を見ると、能天気に河合さんや小野寺さんとおしゃべりしている。いや、あの2人相手やと能天気ではないかもしれんけど、と思ったが、なんにせよあの2人のマシンガントークを止めることは僕にはできないので、いよいよ神に祈るのみ、と思いながら適当に立花さんの相手をしていた。
そんなこんなで夏に行けなかったくら寿司にみんなで到着し、10人いるのに4と6で分かれるという謎の分かれ方をして席についた。この辺がこの集団の危うさを物語っている。
僕の方の席には葛城さん、綾辻さん、丹波さん、宮ノ下さん、立花さんが座った。が、立花さん以外全然食べない。宮ノ下さんに至っては108円のお皿を5皿頼んで終わりという大起水産でいつもやってるケチくさいやり方をしていた。しかし彼女はびっくらぽんが好きらしく、びっくらぽんしたさに他の人に
「立花さん。もっと食べないの?」
などとせがんでいた。立花さんには、
「
とかわされていた。
普段ごはんがカロリーメイトの、なんなら最近はバランスパワー2本の僕だが、お腹が空かないのでなくお金がないだけなので、実際はそれなりに量を食べられる。今日はもう卒業も近いということで、ハメを外して好きなだけ食べていた。それがよほど珍しかったのか、後ろの席で小野寺さんや河合さんが
「え?お前まだ食うん?やばすぎやろ」
「え?何皿食べたの?そんな食べれたの?」
などと言っていた。お金の許す限りは食べたいやろ。
みんなが食べ終わって、びっくらぽんは結果葛城さんだけ当たった。
「宮ノ下さんあげるわ。私いらんから」
「え、いいの?ありがとう!」
葛城さんから景品をもらった宮ノ下さんは、今日一嬉しそうだった。僕はそれをこの歳でびっくらぽんにこんな盛り上がれるなんて幸せな人やなぁ、と思って眺めていた。
帰りは、地図が読めないハイパー方向音痴の宮ノ下さんがなぜか先陣を切って歩いていた。案の定最寄りの一駅先に行こうとしていたので、慌てて軌道修正し、駅でしばらく宮ノ下さんの二人称卒業文集の話でもりあがったが、みんなの電車が来たので各々別れて帰路についた。明日も楽しく変なことしよう。
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