2018年10月22日

 僕らの学校、私立平城学園高校は、高2からクラスが文理に分けられる。特に高3では、理系はともかく文系は国公立志望と私立志望、さらに成績も踏まえてクラスが分けられる。なので、必然的によく関わる人間が決まってくる。


「なぁなぁ倫理の過去問くれへん?」


 体育祭も終わった二学期の半ば、僕は丹波さんに倫理の過去問を要求していた。倫理の過去問は、倫政の過去問とセットになっている。倫理選択に転向した僕は、なんとか買わずに倫理の過去問を手に入れようと、仲良しの倫政選択に過去問を要求していた。


「え?いや自分、まだ倫政するかなにするか迷ってるし…」

「でも倫理はせんやろ?」

「いやもしかしたらするかもしれん」

「え、がち?」


じゃああかんやん、と思った僕は、小野寺さんに聞きに行った。


「なぁ小野寺さん」

「どうしたん?」


人に話しかけるのが苦手な僕だが、小野寺さんは話しかけるととりあえずどうしたん、って聞いてくれる。そこが優しいなぁと思いつつ、


「倫理の過去問ほしいんやけど…」


と経緯を説明した。なんだか話は噛み合わなかったけれど、あったらあげる、と言ってくれたのでとりあえずお願いした。ついでに模試の話も話題に上がったので、


「そういや模試立花さんと席隣やって、立花さん世界史カンニングし放題やわ〜って言って、僕も英語とかカンニングして受けれるやんって話してん」


という話をしたら、


「落ちろ」


と言われた。やっぱり冷たいかもしれない。冗談やん。


 ちなみに、僕のクラスは賢い私文とあほな国文が混ざった仲のよくないJクラスだ。小野寺さんや立花さんは賢い国文のKクラス。Kは賢いのKである。あともう1クラス、あほな私文のIクラスがある。Iは動物園のIだ。あほな国文しかいないJで倫政の過去問を持っている人はいないので、Kに聞きに行った次第である。全く関係ないけれど、丹波さんは普通の理系のGクラスだ。


 昼休み、ごはんを早めに食べ終わった僕は、世界史のノートを提出しにレクチャー教室に向かっていた。1時間目の世界史の時間に、大好きな世界史の先生に倫理受験の相談をしていたため、出し忘れてしまったのだ。


 レクチャーに着くと、動物園Iクラスの貴島さんと田仲さんがいた。どうやら次の時間が世界史のようである。2人で小テスト範囲の問題の出し合いをしていた。早めに移動して2人で勉強とかカップルのするやつやん、と思いながらノートを提出してそっとレクチャーを後にした。


 J組に帰ろうとすると、廊下の壁側と教室側で小野寺さんと河合さんがおしゃべりしていた。僕は何事かと思って怯んでしまった。なんでそんな離れて喋ってるんや、と思ったが、そこを通らないと教室に帰れないので2人の間をそっと通って教室に戻った。あの2人が話していると謎の威圧感がある。


 5時間目の英語の夏野先生の時間は、ひたすらクラスメイトに絡まれながら過ごした。僕は果てしなく英語ができないので、周りから激しくフォローされたり馬鹿にされたりする。が、英語ができないことは周知の事実なので別にそんなことはどうでもよかった。それより今日の朝礼拝で言われた、コミュ英が英表になって英表がコミュ英になる、という事実に混乱して、今どっちの授業してるんや、の方が気になっていた。


 終礼の時間に模試の結果が返ってきたが、世界史が84点しかなかった。ひどい結果だ。

僕は世界史が好きだ。自他共に認める世界史めっちゃやってる人間である。狂ったように世界史しかしていなくて、一部からは「世界史の王」と呼ばれるくらいには世界史しかしていない。周りのほとんどに世界史ができるやつだと思われているので、いろんな人から世界史どうやった?と聞かれたが、恥ずかしくて答えられなかった。凋落している。聞くところによると、動物園Iクラスの斎藤さんは満点やったらしく、僕はもう生きていけない…とものすごく落ち込んだ。



 先生にも顔向けできなくて、世界史の補講をボイコットした。推薦の関係で補講も残ると言っていた立花さんに、


「残るんやったら僕補講休むから今日のプリントコピーさして」


と言ったら、


「え?嫌」


と言われた。冷たい。なので仲悪いJクラスの中の仲良し菊くんにお願いすると、二つ返事で了承してくれた。さすが菊くん、優しい。


 ボイコットによる先生からの心象の悪化が気にかかるが、病院行くから、と言って帰ってきたので多分大丈夫だろう。いやでも自分で直接言ったらよかったかな。菊くんはともかく立花さんがそんなに優しいはずがない。かもしれない。


 丹波さんたちは僕を置いて東川さんとさっさと帰って行ってしまったので、なんかしらんけど残っていた宮ノ下さんと一緒に下山した。いつも残っている南野田の図書館で世界史のやり直しとかやりたいことをやろう、と決心しながら駅に着くと、丹波さんや綾辻さんが駅前のコンビニでまだ喋っていた。僕らはよく駅前のコンビニの前でたむろしておしゃべりしたり、課題を教えてもらったりしている。しかし今日はやりたいことがあったので、おしゃべりせずに電車に乗った。


 帰りの電車は駅前のおしゃべりを切り上げた小野寺さんと、宮ノ下さんと3人で乗った。2人とも受験前に塾をやめる、という話を聞きながら帰ってきたが、なんで受験前に塾やめるんやろう…と思った。お金持ちの考えることはよくわからん。その後小野寺さんは窓から見えたガレージのソーラーパネルを気に入り、うちにも導入したい、と言いながら電車を降りて行った。いつもと同じく宮ノ下さんと図書館で残って勉強して、図書館が閉まる時間に別れて帰ってきた。明日も楽しく変なことしよう。

 

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