圧倒的な力


「誰だてめェ!!」

「言ってるじゃないですか。彼女は俺のツレなんです」


私を助けに来た?彼は両手を挙げて降参ポーズをとる。


え?何がしたいの?


それが率直な感想。


眼鏡だし、帽子だし、地味だし…。

引きこもり人生を送ってきたような人。

その人は、現実世界の救世主になろうとしているのか。

いいよ。無理しなくて。


私の人生これで諦めたから。


…あき…らめたから…。



「オウオウ、彼氏ー。じゃあ彼女の変わりに何してくれんのー?」


そんな引きこもりを見て優勢だと思ったのか、男は見下す。


しかし引きこもりはいきなり、ニコニコしていた顔をもっと笑顔にした。

「「!?」」

「何でもしてあげますよ」



何を言っているの…!?

「私なら、いいからっ!!ほっといて!!」


無茶苦茶に叫んだ私の声に野次馬が集る。

私はそんな事も気づかなかったけど、引きこもりは私の手を優しく包んだ。


「そんなわけにはいかないんですよ」

「……っ!!」


―――優しい笑顔。溶けてしまいそうな瞳。


雰囲気も何もかも、彼に魅了されてしまった。

私の顔は赤くなっていたかもしれない。



そんな彼は、私から周りに視線を向ける。


「野次馬が多くなってきましたね」


と一言。


「だから何だ…」


すると男は少し周りを気にし始めた。


「これであなたは逃げれませんね。目撃者はこんなにいるのですから」


「110番しました。直に警察が来るでしょう」


え、いつの間に…!!


携帯を見やすく振る彼に男は怒りを顕にした。


「てめェ!!フザけんのもいい加減にしやがれェ!!」

「フザけてませんよ~」

「その態度がフザけてんだろうが!!!!」


男は彼に掴みかかった。

胸ぐらを抵抗もなしに掴まれている彼。


「逃げなくていいんですか?警察来ますよ?俺らはあなたを脅迫罪で告訴できるんですから」

「逃げるのは…」


男の拳が強く握られた…


「てめェは殺してからだ!!」


彼の腹に拳が入った!!


「っかは…!!」

「きゃ……」


彼は腹を抱えて膝を地面についた。

男は上から見ながら足を振り上げる。


「…暴行罪ですね…証拠も出た。これで逃れはできません」

「黙れェェ!!」


顔面に向けられた足を、私は見ていられなくて目を手で隠した。


辺りが静寂に包まれ、私はそっ…と手をよける。

目にしたものは、目を疑うものだった。

どうやったのか、立場は形勢逆転。彼が男を上から押さえつけていた。

男も何が起きたかわからずに目をぱちくりさせていた。


そんな時だった。

警察のサイレンが鳴り響いたのは。


「ほ~らチンタラしてたから警察来ちゃいましたよ~」


男の上から避けると、男は警察の音も聞いて不味いと思い


「覚えてろ!!」


なんておきまりのセリフを吐いて逃げていった。



男が逃げて行った後、私は彼のソバに寄る。

「あの、大丈夫ですか?」

と言いながら。

その彼は手をふりながら

「大丈夫大丈夫」

と笑顔で返す。


でも腹をおもいっきり殴られていた…と記憶を辿る。

「あの、お腹…」

「あぁ。平気ですよ。理由は…コレです」

「!」


彼の服の中から週間少年◯゙ャン◯゚がでてきた。

「元々入れておきましたから。あの男が殴るというのはわかってましたし」

「わかっていた?」

「見てからにあの男は殴りそうでしょう?

あぁ。一応言っておくと…警察も嘘ですよ」

「え!?」


彼はそう言うと野次馬に向かって

「お楽しみ頂けましたでしょうか?これにてショーはおしまいですよ~」

と声を張り上げた。

すると野次馬は楽しかったぞー!兄ちゃんやるなーと野次を飛ばしたあとゾロゾロ帰っていった。


「あのっ…どういうことですか…?」


訳がわからない。

すると彼は微笑んだ。

「俺は警察に通報なんかしてません。あのサイレンの音は見回りのパトカーの音です。あらかじめあの時間帯に見回りをするのをわかってましたから」


説明をし始めた彼は、コツコツと靴の音を鳴らしながら、まるで探偵の様に告げる。


「そして男の性格もわかっていました。あの短気な性格の中に臆病な自分を隠していると。なので男が暴力をふるうように促しました」


私の前に止まると彼の身長より少し高いところで彼は手を平行に動かした。


「きっと男と僕の身長からして腹を殴るだろうなーって思ってましたから週刊誌を挟めた。ただそれだけです。ちなみに野次馬も集めたのも僕です」


その観察眼は…神じゃないか。と思ってしまった。

それだけ。と彼は言うが、本当にそれだけ。なのだろうか。

それだけ。を出来る彼が凄いと私は思ってしまった。


「もう、説明はよろしいですか?」


丁寧な物腰で喋る彼。

まるで紳士の様で…みとれてしまった。


「は、はい…」


「では、1つだけ言わせてもらいます」


なんだろう…と思った私は、戸惑いながらも頷いた。


「なぜ、山のあなたが降りてきたのですか?」

「そ、それは…」


見抜かれてた。


「つ、つまらなかったから…」


彼の前では嘘はつけないと思い本当の事を言うと。彼はため息をついた。


「…もうこれでわかりましたか?ここは恐ろしいという事を」


私は…頷くことしかできなかった。

涙が…落ちてきそうで。


それもわかったのか、彼は優しく私の頭を撫でた。


優しくて、暖かくて。


堪えていた涙が溢れてしまった。


「ぅっ…うっ…」


泣いている間、彼はずっと私の傍に居てくれた。




学校では強い私。

男子にも負けないし、女の子に頼られる存在。


な、ハズなのに…。


**********



彼女は、儚い。



気まぐれで助けた彼女は、安心すると同時に嗚咽を洩らして泣き始めた。

俺の前で泣き始めた彼女に狼狽えもしたが、ほっとくわけにもいかなくて傍にいた。


せめて…泣き止むまでは。



俺より小さく、俺より弱い彼女。


そんな彼女は、すぐ泣き止み

「ありがとうございました…」

と目を赤らせながら笑った。


もう二度と会わないだろう。

そう思っていた矢先、

「お名前は…?」

と聞かれた。


ユウです」

「悠さん。私は沙耶サヤです。

今日はありがとうございました」


「いえ。これからは気を付けてくださいね」








  それが、彼女との

       彼との




   出会いだった。


...NEXT——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る