バラバの方を

『バラバの方を』 【絵画】

 大物画家の私設美術館の開館記念パーティーの会場。参加者達の、憎悪と殺意が交錯する中、聖者殉教の絵画に見立てられた惨殺死体がいくつも発見される。ある者は腸を引きずり出され、ある者は歯を抜かれ……。事件に関心を抱いたパーティー参加者の一人である新聞記者、持田博喜もちだひろよしは独自に調査を始める。

 あらすじからも分かるよう、グロテスクな死体がいくつも出てくる上に、被害者と容疑者は、揃いも揃って狂人だらけ、更にそのほとんどが、他の誰かへの強烈な殺意や憎悪を抱いているという異様な背景。この時点でも、かなり人を選ぶ作品であることは間違いない。

 残念ながら、ミステリとしての出来はやや微妙、という評価に留まってしまう。と、いうのも、様々な理由で、かなり真相が見えやすいのだ。もちろん、その分、「読者にフェアである」と言えなくはないのだが……(※7)。

 だが、本作を読む上で、実に興味深いのは、その結末である。ネタバレはしない、と公言した以上、詳しくは書かないが、本作の後に、様々な『涅槃』作品、すなわち氏の『問題作』が、次々と発表されていることを考えれば、『狂気の扉』を開いてしまったのは、作者自身で、今後の彼の作風を仄めかしている、とは、考えすぎだろうか? ともかく、この作品辺りから、幻想風味から涅槃へと、作風の転換を感じることが出来るのは確かだ。


※7 本作が一番出来が良くない、という考えは今も変わっていない。しかしながら、見所自体はある作品であり、「大外れ」が無いというのも飛鳥部勝則の評価出来る点であると思う。

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