ヴェロニカの鍵

『ヴェロニカの鍵』 【非美】【絵画】

 友人の画家、郷寺秀ごうじしゅうが、自宅で死んでいるところを発見した久我和村くがかずむらは動転し、通報もせずにその場を立ち去ってしまう。翌日、郷寺のパトロンの画商、香田庄乃こうだしょうのと共に、何食わぬ顔で彼の家を訪ねる久我であったが、郷寺の死体は、何故か昨夜あったはずの応接間から、『ヴェロニカ』の複製画の前に移動していた……。

 本作のテーマは『失われた青春』。デビュー作『殉教カテリナ車輪』にも通じる、中年画家の哀愁漂う、全体的に暗い雰囲気が漂う物語だ。

 本作のミステリとしてのジャンルは、『密室』なのだが、その出来映えはとても地味。これまでのように、『昨今の作風に比べると』という言葉を用いるまでもなく、地味である。地味なことをけなしているわけではないが、地味である。

 本作で印象深いのは、やはり久我と郷寺の対比である。学生時代には、共に絵画への情熱を燃やしたはずの二人。その情熱を持ち続け、画家として大成した郷寺と、それが叶わなかった久我。そんな二人の友情や、芸術家の作品にかける、狂気を伴った情熱は、なかなか印象深い。

 極めて地味な作風ではあるが、芸術家の暗い情熱、男の友情と中年画家の悲哀など、飛鳥部勝則ならではの要素は満載。デビュー作『殉教カテリナ車輪』の雰囲気が気に入っている読者なら、本作も楽しめるのではないかと思う。個人的には、後十歳ほど歳をとった時に、再読してみたい一作(※6)。


※6 10歳ほど歳をとってしまったんですよ、これが。

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