冬のスフィンクス

『冬のスフィンクス』 【絵画】【純愛】【幻想】

 芸術家一家の娘、団城美和だんじょうみわの婚約者が、突如失踪。彼女は彼の友人、盾経介たてけいすけを自宅の洋館に呼び出し、失踪の経緯を尋ねる。すると、彼は不可思議な話を語り始めた。彼には『夢の中で、絵画の世界に入ることができる』という不思議な能力がある。その能力で、美和の親戚である彫刻家のコラージュに描かれた、団城家の屋敷に夢の中で入り込み、そこで殺人事件に巻き込まれたのだという……。

 前作『砂漠の薔薇』は、幻想風味と紹介したが、こちらは完全に幻想ミステリ。何せ、事件そのものが夢の中の世界で起こってしまっている。

 本作で興味深いのはやはり設定の妙。夢の世界、絵画の中の世界であるにも関わらず、そこは現実の世界にも実在する、主人公、盾の知り合いの実家。そこは果たして夢の中なのか、はたまた現実世界なのか、という展開になるのはお約束。

 事件は、ミステリとして合理的な解決―経緯はひねくれてはいるが―が行われるものの、本作の主題はやはり、切ないロマンだろう。夢の中の事件、ということで、メタ・ミステリを想像する方もおられるかもしれないが、後書きの筆者のコメントを引用すると、「単なるロマンを書いたつもりだ」とのこと。もっとも、「私にとっては本格推理小説以外の何物でもないが、まったくそう見えない、やっかいな作品だ」と続けているのはご愛敬。読者も、ロマンとして読むが正解なのかもしれない。

 また、本作は『砂漠の薔薇』との関連がある。それぞれ独立した物語であるので、どちらから読んでも、全く問題は無いが、本作を読めば、『砂漠の薔薇』で不明瞭であった箇所がはっきりとするはずだ。

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