砂漠の薔薇

『砂漠の薔薇』 【百合】【絵画】【幻想】

 荒れ果てた洋館で発見された、女子高生の首無し死体。彼女の同級生である、奥本美奈おくもとみなは、画家の明石尚子あかしなおこに、モデルになるよう頼まれる。困惑しながらも承諾した美奈であったが、何と尚子の家は、その洋館の隣にあり、彼女はその死体の発見者でもあった。やがて、事件の暗部に迫る二人の前には、刑事を名乗る怪しげな男や、狂った彫刻家まで現れて……?

 『首切り』をテーマとした、幻想風味のミステリ。会話劇、と後書きにもあるように、ほとんどが登場人物の会話によって展開され、それ故にかなり読みやすい。また、登場人物は、ほとんど全員が変人で、そんな変人達が、淡々としたペースで、如何にも台詞然とした台詞を吐き、あまり会話はかみ合わないままに物語は展開する。こんな、どこかが決定的に壊れているけど、何故か品がある変人達には、どこか親しみを覚えてしまう。この独特な『変人観』は、後の飛鳥部作品にも大いに受け継がれており、飛鳥部ワールドの住人達には、こんな雰囲気の登場人物が多い。

 ところで、本書の文庫版を手に取った読者は、まずその表紙に度肝を抜かれるに違いない。しかし、この絵は、本作の背徳的で現実感が希薄な雰囲気に、絶妙にマッチしている。新書版をお持ちの読者にも、是非チェックしていただきたい。

 しかし、そんな怪しげな空気をまとったこの物語には、意外に(?)論理的で、まとまった結末が用意されているのも、おもしろいところだ。伏線の多さからは、ミステリとして、かなり作り込まれた作品であることがわかる。中にはかなり大胆な伏線もあり、作品の雰囲気とも合わさり、強烈な効果を発揮している(※4)。

 本作は作り込まれた本格ミステリであるし、作品のテーマでもある、『首切りの芸術作品』に関する蘊蓄など、飛鳥部勝則ならではの要素も多い、彼の初期の代表作の一つであるように思う。だが、昨今の、ぶっ飛んだ作風に慣れてしまった読者にとっては、小さくまとまりすぎた結末は、やや物足りない、という印象を抱いてしまうのも致し方ないだろう(※5)。なるべく早い段階で、読むことを勧めたい。もっとも、物足りないとは言っても、百合要素に首切りと、やはり人を選ぶ作風であることは確かなのだが……。後書きには、「デビュー作のつもりで書いた」、とあることからも、飛鳥部氏は、この頃から独自の路線を邁進するつもりであったのかもしれない。

 尚、次作『冬のスフィンクス』とのリンクがあるが、それぞれ独立して完結するため、どちらを先に読んだとしても、特に問題は無い。併せて読むと発見があることだろう。


※4 伏線伏線と連呼しているが、私は飛鳥部先生の伏線の張り方が好きだということに、これを書いたずっと後に気付いた。


※5 ここには、ある方に疑問を呈された。確かに言い過ぎていると思う。

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