第16話 作曲をしよう

 遂に楽器から音を出す事に成功したキルエムオール。しかしながら、彼らは最初の一歩を踏み出したに過ぎない。果たして今後、如何なる試練が待ち受けているのだろうか…


……


「うーん」


 俺は”バケモノ”を手に曲作りを開始し数日が経った。俺達の求める楽曲は第一回キルエムオール総会(*第8話より)にて、各自出し合った既存アーティストを融合、最終的にメタル調に仕上げるという物である。なんとも適当な結論に至ってしまったが、ハッキリ言ってめちゃくちゃ難しいぞこれ…

 

「おいおい、進行だけでも良いから早く曲作ってくれよ、ひまひま〜」

「毎日、パット打チダケハ飽キマシタヨー」

「この無能が」


 クソが…こいつら、動物任せも良いところだな。生み出す苦しみも知らないで。にしても何とかせなアカン。


「なぁ、何とかならんか”バケモノ”?」

”…我は爆炎を司るギターなり!…”



 駄目だこりゃ。”バケモノ”もこの調子だ。


「セ○ィロスきたー!!」

「遂ニデスネ!」

「待ってました」


 ここにいても何も浮かばない気がしたので、俺はバケモノをギグバッグに入れ、外に出る事にした。

 

 俺は近くの公園に来た。昼下がりの今、多くの動物が寛いでいる。場所は違うが、あいつらに出会う前にも公園に来ていた事を思い出し、時間の経過をしみじみと感じた。また、あの時とは周りの見え方も違う。あれ程に輝きを放っていた世界なのに、今はサラリーマン時代の風景と同じだ。当時の俺は社会から外れ不安こそ感じたもののその自由に歓喜したが、今となってはバイトではあるものの再び社会の川に飛び込み、どこか安心を感じているカワウソだ。あの景色は偽りに過ぎなかったのか…

 

 なんて、空を見上げて呆けた顔でバケモノを抱きながら曲が降って来ないかを待ちわびていた。しかし、突如舞い降りて来たのは意外なものだった。目の前には女子高生のヘビがいた。


「ギターだ!、ねぇねぇ、おじさん弾ける?」

「え、まぁそれなりには」

「凄いじゃん!なんか弾いてよ!」


 何弾こうか迷ったが、こう言う時はみんな知ってて、ウケのいい曲を弾けば良いのだ。これが答えだ。


「なんでだろう〜。なんでだろう〜。なんでだなんでだろう〜。シャンシャン♫」

「すっごーい!おじさん”なんでだろう”弾けんだー!マジで凄い!ねぇ私にも弾かせてよ〜」


 俺は彼女にバケモノを渡し、多少の手解きをして思うがままに弾かせてみた。


”…我は爆炎を司るギターなり♡”


 心なしか、バケモノも喜んでいるようだ。

 そして楽しそうにギターを弾く彼女の姿に俺は忘れかけていた物を思い出した。そうか、俺は曲を作る事に必死になり過ぎていて全くギターを弾く事を楽しんでなかった。それでは本当にいい曲なんて生まれはしないだろう。彼女は思い出させてくれたのだ。何かが掴めそうになったその時、彼氏かと思われるヘビの男子高校生がやって来た。


「おい、ヘビ美、帰ろうぜ」

「うん、オッケー!おじさん、ありがとね!」

「ギ○ゾン?…いや、フォ○ジェニックか。なぁヘビ美、ギター欲しいって言ってたよな。レ○ポールはやめとけよ、重い。テ○キャスにしな、可愛いから」

「うん、わかった!」


 そう言ってヘビのカップルは去って行った。俺は2匹を前足を振って見送っていたが、腹部に妙な熱を感じ、それはみるみると温度を上げていった。


「あっちいぃ!!!なんだこれ!?…まさかバケモノお前か!?!?!?」


 その高温の発生源は紛れもなくバケモノだった。ギター自体が熱を帯びる事なんてまず有りえない。原因はなんだ!?このギターにあって他のギターにない物…はっ!こいつは自我を持っている!それにこいつは”爆炎を司るギター”だ!しかし今までにこんな事はなかった。今までになくて先程まであった事…俺は一つの答えに辿り着いた。


「バケモノ、お前…悔しいのか…さっき、ヘビの高校生に馬鹿にされたのが悔しいのか!?」


”我!憤怒の爆炎を司るギター也!!”


 再びバケモノに触れたその時だった!突如として頭の中を駆け巡り、今にも爆発しそうな創造が溢れた!


「おお!おお!これだ!これだ!!!」


 俺は急いでバケモノをギグバッグに仕舞い込み担いで家路を走った!チーターもビックリな俊足で駆け抜け、数分で家のドアを叩いた!


「オラアア!!」

「うお!なんだよ突然!?」

「驚クジャナイデスカ」

「ドアは静かに開けろ」


 いつものガヤも気にならない程、溢れる創作力が止まらない!俺は急ぎパソコンを起動させてオーディオインターフェイス内蔵のマルチエフェクターにバケモノを繋ぎ、DTM上に弾き倒し豪音を落として行く。呆気に取られる3匹を後ろに、あっという間にそれは出来上がった。


「出来たぞ!聴け!」


 3匹は恐る恐る曲を聴いた。そして数分後…


「おお…なんか、アー○テクツとS,○,Dとシ○テムオブアダウンとウー○ーワールドを融合させて最後にメタル調にした感じだ」

「凄イ」

「なんか聴いた事あるぞ、これ」


 なんか俺もどっかで聴いた事あるような曲だけどいいのだ。俺は大義を成した。これも俺とバケモノの力だ。俺は満足気になっていたその時、背中が妙に熱いのに気が付いた。俺は後ろを振り向くと恐ろしい光景が飛び込んで来た。


「うわぁぁ!バケモノがめっちゃ燃えとる!!!」


 風呂の残り湯ぶっかけた。

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