第15話 バケモノに弦を張ろう

「早くマグロ持っていけ!」

「ざす!」


 超新鮮水産で働き始め、早くも1ヶ月が経った。最初は辛くて仕方なかったが、不思議と慣れるもので、今では元気に返事出来るまでになっている。それでも体力の減り方は尋常じゃないし、キツい魚臭に耐える日々を送っている。

 

 そんな中、我々も日々成長している。


 カワ谷の解体技術はカンストで、あっという間にマグロは解体される。恐らくマグロ自身、4等分にされた事に全く気が付いてないだろう。死んでるけど。

 カワ島は、その半サイボーグ化された身体を活かし、一回に数百kg のマグロを運べるようになっていた。設定次第では、もっとイケるとの事。

 カワ木はターレを完全に乗りこなし、配達スピードが場内No.1になった。ヤツ曰く”シャイニングロードが見える”らしい。

 このように俺達の”マグロライフ”は確実に定着しつつあった。


 話は変わるが、先日の相席居酒屋で出会った、ヒョウとキツネのOLとは飲み友達になった。罵倒した後、店を出たが罪悪感が半端なかったので、引き返し土下座したら許してくれたしLINEも教えてくれた。

 マグロ嫌いの件は、アボカド混ぜて食わせたら”美味しい!”だって。マジちょろい。


 そんなこんなの毎日だが、俺達の真のテーマを忘れてないだろうか?


 真のテーマ、それは”メタルバンドを結成し、世界を混沌に突き落とす”だ。


 だが、マジで何も活動出来ていないではないか…クソが、マグロ運んでる場合じゃないんだよ…



 そして今日も今日とて終業時間になり、帰ろうとした時、マグロ爺に呼び止められた。


「よし!カワウソ共!こっち来い!」

「なんだよ、爺」

「売れ残りくれんのか?」

「早ク帰リタイデス」

「競馬か?」


 マグロ爺の前に行くと、封筒を4つ差し出して来た。


「よく頑張ってんな!初給料おめでとう!」

「おお!!」*4匹


 俺達はすぐさま封筒の中身を確認した!現金が見えると、この1ヶ月間の労働を思い出しジンジンとこみ上げてくるものがある。


「大切に使えよ!」

「よっしゃ!ト○ジャーファクトリー行くぞ!」

「おお!」*3匹

「おい」


 こうして俺達は懲りず、ト○ジャーファクトリーを訪れた。


”…我は絶氷を司るエレキギター弦なり!…”

「はいはい、分かった分かった」


 俺はギター弦を手に取りレジに持って行き会計を済ませた。また本日の収穫は他に ”歪時を司るドラム教則DVD” ”聖樹を司るギタースタンド” だ。

 速攻でト○ジャーファクトリーを後にして帰宅。俺はやっと手に出来たギター弦にワクワクしながら”バケモノ”に早速、弦を張る事を試みた。


”…我は爆炎を司るギターなり!…”

「うるさいうるさい」


 俺は慣れた手付きで6本の弦を張り進めていき、遂に求めていた姿が完成した。


「おお…綺麗だよ、お前は一番その姿が綺麗だよ…」


 そして、以前より持っていたアンプに繋ぎ、電源をオン。オーバードライブのゲインはフルテン。EQのハイ、ローもフルテン。ミドルは11時に設定、所謂ドンシャリだ。そして緊張の初鳴らし…


”ギャギャーーン!!”


「うん!これE○Gの音だ!」


 俺が聴き慣れたE○Gの音だ!どんなギターでもE○G乗せれば、E○Gの音にしかしない!(*個人の意見です)それが最高なのだ。

 

 いやしかし久しぶりのエレキギターは非常に楽しい。俺は無我夢中で弾きまくる。が、次第にチューニングがずれてくる事に気が付き萎えた。


「んだよ、やっぱオンボロギターだな」


 そう吐き捨てた次の瞬間


”ビーーーーーーーーーーーーー!!!!!”


 爆音のノイズが鳴り響いた!


「おい!めっちゃうるせーぞ!」

「早ク止メテ下サイ!」

「死ぬ」


 俺はいきなりの大ノイズに驚いたが、”もしや”と思った。


「ごめん!ごめん!俺が悪かった!綺麗だよ!」


 そう言うと”ピタっ”とノイズは消えた。


 俺は確信した。こいつ(バケモノ)は煽てりゃ、それなりに鳴って、悪口言えば、ヘソ曲げる事を。

 めちゃくちゃ面倒臭い。今後、常にご機嫌伺わなきゃならんのか…


「クソが…買わなきゃ良かった…」


”ビーーーーーーーーーーーーー!!!!!”


「ぐわーーーーーー!」*4匹


 機嫌直るまで10分かかった。

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