第7話 脳みその仕組み
”チュンチュン、チュンチュン”と雀の鳴く声に俺は起こされた。…ここは?…そうか昨日は退院祝いで飲んだくれていたんだ。記憶はなく、玄関で寝てしまっているが不思議と帰宅出来ているんだよなぁ。それは何故か。これには脳みその働きが大いに関わってくる。そいつについて簡単に説明しようではないか。
まず記憶には”短期記憶”と”長期記憶”と言うものがある。”短期記憶”とはその場で起きているNOWの出来事を記憶する事に当たる。一時的なものである事から、その時は覚えているがすぐに忘れてしまう。言ってしまえば脳があんまり必要としてないから捨てちゃえと言う事だ。一方の”長期記憶”は言語の読み書き、生活習慣、知人の情報など覚えてなきゃヤバいというものの記憶だ。元は”短期記憶”より始まるがその繰り返しにより”長期記憶”へと変換される。言い換えるなら頭の中にある図書館での一冊で、いつでも読み返し可能なものだ。
さて泥酔にも関わらず帰宅出来た事に”短期記憶”と”長期記憶”はどう関わってくるのか。脳みそに置いて”短期記憶”を司るのは前頭前野であり、”長期記憶”を司るのは側頭連合野という部分にある。この二つの部分において前頭前野はアルコールの影響を受け易く、側頭連合野はアルコールの影響を受けにくい。酒を飲みアルコールを摂取する事で前頭前野が正常な働きがしにくくなり”短期記憶”に欠如が発生してくる。また”短期記憶”から”長期記憶”へ記憶の伝達する海馬内の物質の働きもアルコールにより弊害が生まれてくる為、記憶が脳みそに蓄積されにくいのだ。
このように老若男女問わず、路上爆睡、ゲロ、性行為、タクシー降車後の未払い及び運転手への暴力行為など酒の失敗において当事者の”覚えてない”は”短期記憶の欠如”と”長期記憶の伝達ミス”により発生している。
結論だがアルコールの過剰摂取でどうでも良い事は記憶されず、習慣となっていた帰路は長期記憶とされていた為、無意識でも帰宅出来たと言う事である。
……
「へぇ…よく出来てんなぁ」
廊下の冷たい床にうつ伏せ状態のまま、スマホで”泥酔しても何故家に帰れるのか”を調べ事実を知って感心した。それにしても頭痛、胸焼けも酷い。ムクっと起き上がり水を一杯飲む。そしてトイレを足そうとドアを開いた時、白い獣が顔面を便器に突っ込んでいる光景が目に入ってきた。見なかった事にしてリビングに行くと、サングラスをしたカワウソが俺のベッドでスヤスヤと寝ている。見なかった事にして風呂に入ろうドアを置けると、浴槽にもたれ掛かる半サイボーグのでかいカワウソ。俺の思考は停止した。
……
それから数時間後、3匹はノソノソと起き上がってきたので怒りをグッと抑え問いただした。
「何でウチが分かった?隠れてついて来たのか?まぁそこまでは良い。問題はこれだ、犯罪だろこれは?」
俺はベランダの方を指差す。そこにはブチ破られた窓ガラスがあった。
「そんな事言ったってよー、なあ」
「スイマセン、記憶ガ全クナクテ」
「お前んちベッド固いな」
前足が出そうになったが、ぐっと堪えた。
「第一よう、俺達がぶち破ったって証拠あんのかよ〜」
「モシカシタラ、強盗ガ入ッテキタケド、僕達ガ返リ討チニシタ可能性モアリマスヨネ!」
「コーヒー出してくれよ」
怒りを通り越しもう諦める事にした。とりあえず贖罪として部屋の片付けをさせ、この機にこいつらに壁紙も貼らせよう。俺は玄関にある何ロールもの壁紙を持っていく。
「壁紙も貼るぞ」
「めんどくせーなー。てか何でこんな壁穴だらけなんだよ。気持ち悪りぃ」
「頑張リマショウ!」
「ハケ取ってくれ」
みるみる部屋は姿を変えていき、空間はヴィンテージ風に生まれ変わった。ぶっちゃけこいつらに手伝って貰ったお陰で相当捗ったな。破れた窓ガラスは段ボールとガムテープで補強したが、見る度に怒りが込み上げてくる。それでも労いの為、食事を提供しようと明太子パスタを作りテーブルに置いたら全員”嫌い”と言うので俺は4人前食うハメになり、こいつらにはそこら辺に転がってたカップラーメンを食わせた。
それから夕方までス○ッチでマ○オカート、ス○ブラ、ど○ぶつの森やって、暗くなったから酒を買って来て懲りず宴会が始まった。
だらだらと下らない話で盛り上がってはいたが、そろそろ宴もたけなわな時間がやって来た。
「まぁ色々とあったけど助かったわ、ありがとよ。それでさ…お前らいつ帰んの?」
「は?俺はもう寮を飛び出して来てんだから帰れねぇよ」
「僕モ家出シテイルンデ帰ル場所ハナイデス」
「え?じゃあお前らどうすんの?」
「決まってんだろ!ここに住むんだよ!」
「オ世話ニナリマス!」
「は!?ふざけんな!無理に決まってんだろ!そんな事!カワ木!お前も何か言えよ!」
「俺は自分の布団じゃないと眠れないから帰る」
そう言ってカワ木は出て行った。
「よろしくな!」
「楽シミダナァ!」
「……」
3匹の奇妙な生活は始まった。
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