第25話  オークキングとの死闘2

叫びと共に俺は走った。俺の覚悟を感じとったのか、オークキングは笑った。凶悪に、狂喜を乗せて。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


何の迷いもなく俺は前に。オークキングの振りかざした肉切り包丁が眼前に迫る『危機感知』、『敵意感知』が警鐘を鳴らす。『観察』しろ!アイツの動きを!刃の軌道を!『剣術』を、『防衛本能』を駆使して、刃を“逸らせ”。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


甲高い音と共に、オークキングの首切り包丁は空を切り、地面に突き刺さった。やった。何とか攻撃を逸らすことに成功した。


「!?」


オークキングは目を見開く。驚き、驚愕。そこに出来たほんの僅かな隙が、ヤツの動きを阻害する。ここからだ。俺は近所から集めてきた『物』をブラックボックスから取り出しオークキングに投げつける。至近距離からの投擲。さあ、どうする?


「ゴァァアアアアッ!」


オークキングは「舐めるなあ!!」と叫んだかの様に『避けた』。強引に身体を捻り、地面に突き刺さった肉切り包丁を引き抜く。その隙に、俺は奴から距離をとる。


「ッ……!マジかよ、コイツ……!」


オークキングは嗤っていた。心底楽しそうに。この状況こそ、己の望んだ状況だとでも言うように嗤った。そして、


早ッ―――!?


「ガッ……!」


全然、見えなかった。気づけば、俺は吹き飛ばされていた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


雄叫びをあげてオークキングは駆け出す。おい、ちょっと待て。何で吹き飛ばされている俺に追いついて来るんだよ!?辛うじて、オークキングが拳を突き出したのは見えた。俺は身体強化をして防御に徹するが、


「ぐあああああああああああああッ!」


俺は地面に叩きつけられた。漫画の様に何度もバウンドをしながら体育館の壁に激突してようやく止まった。背中と内臓がかき回されるような激しい痛み。ヤバい、意識を持っていかれそうだ。踏ん張れ、踏ん張れ!辛うじて、意識を繋ぎ、俺はブラックボックスから即席の壁を作り出す。衝撃で体を痺れさせながら、すぐに後退する。


「グォォオッ!」


だが壁は破壊され、あっという間に距離を詰められる。涙で滲み視界に映るオークキングの凶悪な表情。逃げるな、戦え、もっともっと楽しませろ。そう言っているようだった。化け物め!内心毒づきながら、俺は手に持った『片手剣』を振りかざす。甲高い音響が木霊する。あっさりと弾かれて、宙を舞う『片手剣』。


「ッ―――……」


ヤバい、ヤバい……ヤバい!体勢が崩れてる、避けられない。

―――駄目だ。この距離じゃ、壁ごと叩き斬られる。

俺は咄嗟に真横に飛び避け用としたが、オークキングの一撃は体育館の壁を殆ど破壊し、外の景色が悠然と見える。吹き飛んだ瓦礫はそのままの勢いで転がりながら避難していた俺に向かって飛んでくる。


「グハアッッッッ!」


瓦礫の山が見事俺に命中―――めちゃくちゃ痛い。幸いな事に埋もれることはなく立ち上がるが、どこかしこも血だらけで目が霞み、今にも倒れてしまいそうだ。自分のHPが見える。


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先程の攻防で、もう俺のHPは尽きかけていた。自動回復は間に合わない。今、攻撃を喰らったら―――。にやりと、オークキングの口が歪む。勝利を確信した表情。ああ、くそ。良い所まで行ったと思ったのに……。死が迫る。その瞬間、パァンと小さな音が聴こえた。


「ゴアアッ!?」


「えっ?」


なんだ?何が起きた?オークキングは右目を押さえ悶えている。今のは―――銃声?ハッとなって振り向くと、少し離れた建物の屋上に複数の人影があった。そこには避難しているはずの生徒会メンバーと避難民のみんなだった。その中で1人の男性の手には不釣り合いな馬鹿でかい銃を持っている。


「まさか……速水さん?」


ぽつりと呟いた声に反応する様に、速水さんは親指を立てて俺を見た。どうして避難しなかったのかとか、疑問はあるがとにかく助かった。彼が作ってくれた隙を逃すな。


「くらえッ!」


―――倒れろ。

その思いでいざという時にブラックボックスに収納していた岩や廃車の塊などを一心不乱にオークキングに投げつける。


「ォォオオオオオオオオオッ!!」


オークキングは叫ぶ。凄まじい形相でこちらへ向かって駆け出してきた。この状況であっても、奴に後退という文字は無いらしい。瓦礫も一緒に投げつけるが、それでもオークキングの勢いは止まらない。


「このッ!」


俺はアイテムボックスに残った質量兵器をとにかく放った。先程と違い、それらは明確にオークキングへダメージを与えている。倒れろ。


「ォォォオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


叫びが木霊する。迫りくるオークキングの威圧感は凄まじいの一言だった。まさしく手負いの獣の決死の迫力。それでも奴はこの状況を心底楽しんでいるのだろう。

笑みが消えていない。


―――戦イコソ全テ。


そんなことを呟いている様に笑っている。


最後のブロック片がヤツの体に当たる。既に体は歪に歪み、全身の皮膚はボロボロに崩れていた。俺とオークキングが肉薄する。最後に俺の手元に残ったのは小さな包丁だった。それは最初に外に出た時にゴブリンから奪った最初の武器。


「うあああああああああああああああああああああああああッ!」


叫びと共に、絞り出すように最後の力を振り絞る。強化した敏捷。僅かに、オークキングが刃を振りかざすよりも先に、俺の包丁はヤツの胸に突き刺さった。

オークキングの手に持った首切り包丁が地面に落ちる。「倒れろ!」と叫びながら刃を捻る。オークキングが吠える。それはまさしく断末魔の叫びだった。そして、オークキングは仰向けに大の字になって倒れた。倒れる瞬間、奴と目が合った。


―――見事ダ。


そう言っているようだった。オークキングの体が霧散し、そこにはこぶし大の魔石が転がった。一瞬、時が止まったように感じた。心臓の高鳴り、荒い呼吸音。


「勝った……のか?」


俺の問いに答える様に、頭の中に声が響く。


≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが25から26に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが26から27に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが27から28に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが28から29に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが29から30に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが31から32に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが33から34に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪アイサカ セイヤのLVが34から35に上がりました≫


≪ネームドモンスター『ルシフェル』の討伐を確認≫

≪討伐ボーナスが与えられます≫


「はは……やったな……―――」


頭の中に響く声を最後まで聞く事は出来ず、俺は地面に倒れた。生き延びた。

生き延びる事が出来たんだ。疲労と緊張感からか、あっさりと俺の意識は闇の底に沈んでいった。


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