第23話  黒幕の正体

「キャアアアアッ!」


俺が刺されて誰かの悲鳴が上がる。ナイフは俺の腹をもっと深く抉ろうと少しずつ刺さっていく。俺は腹からドバドバと血を流しながらも痛みを我慢して「空間の裂け目」から出ている右手を掴んで思いっきり引っ張り空間の裂け目から引きづり出そうとしたが振り払われて空間の奥に逃げられてしまった。俺は地面に片膝をつけて倒れてしまった。刺された俺を心配して近くにいた速水両親と少し遠くに離れていた生徒会メンバーが駆け寄って来る。しかし、茜ちゃんの後方にまた空間の裂け目が出来、新しいナイフを持った右手が現れ茜ちゃんを狙っているようだ。


「させるかっ!」


俺は腹に刺さっているナイフをそのままにして気合いで何とか立ち上がり、太ももに下げてある鞘から魔法剣を抜き身体強化を発動する。即座に足に全力の力を入れ地面を蹴り、瞬間移動したように空間の裂け目まで文字通り飛ぶ。そして空間の裂け目から出ている右手に空中蹴りをお見舞いする。幸い空中蹴りは右手に持っていたナイフを弾き飛ばし、体育館の屋根に突き刺さった。空間の裂け目から舌打ちが聞こえて来て、そして俺の前から消えた。


「逢坂さん、大丈夫ですかっ?!そんなに激しく動いたら出血がひどくなってしまいます!」と慌てて涼宮さんが駆け寄って来てから彩ちゃんにお願いして回復魔法をかけてもらう。回復魔法をかけてもらっている途中で茜ちゃんから「助けてくれてありがとうございました!」と感謝をされた。回復魔法をかけてもらい終わり俺が立ち上がった時に、体育館の壇上から拍手が聞こえて来る。


「パチパチパチパチッ、いや~さすがですね逢坂さん、心臓を狙ったのに外れてしまいました」と空間の裂け目から聞こえて来る。この声はまさか………

「あれ?僕のこと忘れちゃいましたか?ひどいな~気絶している僕を助けてくれたじゃないですか」と笑みをうかべながら出て来たのは………速水君だった。


「先ほどぶりですね、逢坂さん。いや穏健派の使徒と呼ぶべきですかね~」


「………まさか君が過激派の使徒だったなんて。いやよくよく考えたらおかしな点はあったか……俺は最初君を見つけた時、鑑定で調べたが異常はなかった。名前も年齢も合っていたからね。なのになぜ今は名前が違うんだい?」


俺は速水君が空間の裂け目から出て来た瞬間に鑑定をかけていた。その結果、救出時に見たステータスと全く異なっていたのだ。


「フフフっ、聞かれて答えると思っているんですか?相変わらず間抜けですね~。まあその間抜けさに免じて少しだけ教えてあげましょうか。僕の職業は道化師、付与スキルに「フェイク」のスキルを持っているんですよ。そして「擬態」というスキルもね。ああ、それから早苗という少女は土魔法で作り出した人形ですよ。人間そっくりだったでしょう?」


速水君に偽装していた過激派の使徒は擬態のスキルをといたのだろう。顔がドロドロに溶けて顔立ちが整った20歳くらいの青年が本性みたいだ。俺は苛立ちを募らせながら本物の速水君をどうしたのか聞こうとしたら「うちの息子はどうしたんだ!」と速水父親に聞かれた。過激派の使徒は父親の方に顔を向け、笑みを浮かべながらこう答えた。


「私のスキル「擬態」は生きている者に直接触れないと発動しません。そして擬態していられるのは触れた者が生きている間だけなのです。だから「死んでは」いませんよ。今頃僕達の仲間に人体実験のモルモットにされてますかね~。息子さんに会いたいなら私が連れて行ってあげましょうか?もれなく息子さんが人体実験されている光景を見学出来ますよ」と高笑いしながら答えた。


………なぜこうも奴は苛立たせるような喋り方をするのだろうか。さっきから俺のストレス耐性が頭の中で鳴り響き続けている。そのお陰なのか普通なら今にもぶん殴りたくて行動に移しそうだが一歩踏みとどまっている感じだ。俺がそんなことを考えていると過激派の使徒が俺をチラチラと見ていることに気がついた。……ん?なんだ?


「ちっあなたは闇落ちをしてくれる様子がありませんね~これだけ煽っても落ちる気配すらない。あなたは特別のようですね、忌々しい女神だ。」と訳のわからないことを言っている。


「まあいいでしょう、あなたの暗殺は失敗してしまいましたが、寮の方に避難していた人達は排除出来ました。私は帰らせていただきますよ。こいつを召喚してからねえ!」


「ブオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


そういい召喚されたのは俺たちが探していたオークキングだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る