第33話「激突! 元魔王勇者VS元勇者魔王~史上最高のバトル~」

 魔方陣によって転移されたルーファとリュータは荒野へ出現した。


「さ、ここが俺たちの最後の戦いの舞台だ。障害物はねぇし、地面も固いし、戦闘するにはバッチリだろ? このときのためにとっておいた最高のバトルフィールドだ」


 木々が生えておらず、起伏もほとんどない。地面は岩のように固かった。

 見渡す限り荒涼とした風景の続く不毛の地だが――だからこそ、戦う者にとっては最高の場所だ。


「うむ……これほど戦いに適した地もなかろう」

「ああ。最高の戦いは最高の舞台でやりてぇからな。それじゃあ、やろうぜ?」

「うむ。それでは……始めるか」


 ルーファとリュータは、それぞれの剣を抜き放ち、構える。

 ルーファはエクスカリバーを、リュータは魔王の剣を。


 かつての戦いとはまったく逆の立場で、そして、武器で――。


 風がビュウッと吹く音がしたと同時に。

 元魔王勇者と元勇者魔王が激突した――。


 聖剣と魔剣が上下左右あらゆる軌道から相手に向かって襲いかかる。

 それを世界最高峰の剣技を誇る勇者と魔王はそれぞれ凌ぎ、返し、斬りこみ、突き、払い、また斬りこむ。


 並の冒険者なら一秒持たずに死ぬ――勇者パーティですら、十秒で死にかねない攻防をふたりは繰り広げる。


「ははっ、やっぱり力をセーブしてやがったなぁ! おまえの力はそんなもんじゃねぇとは思ってたぜ! なんだ、仲間と協力するためにわざと手加減していたのか!?」

「力を出さずに済むのならそれに越したことはないのでな」


 そう。勇者ルーファは途中から強くなりすぎた自分の力を抑えながら敵と戦っていた。もし、ルーファが全力で戦っていたら、ほかのパーティに活躍の余地はなかったろう。


 そして、それはリュータも同じことだ。ミカゲも四天王も、魔王であるリュータが本気の剣技を出したら瞬殺してしまう。だからこそ、鍛錬中もセーブしてきた。


 だが、今この瞬間――勇者と魔王は己の力のすべてを解き放って戦っていた。

 それは、ありていに言えば――。


「ははっ、やっぱり全力フルパワーで戦うのは楽しいぜっ!」

「同意であるなっ!」


 ――そう、「楽しい」のだ。

 自分と拮抗する力を持つ存在との闘いほど、楽しいものはない。


 自然と笑みがこぼれる。

 血湧き、肉躍る。

 これは戦闘狂でしか、達しえない境地。


 レベリングをしまくり、バトルをしまくり、強敵を倒しまくり――それでも飽き足らない究極の戦闘バカたちの戦いだった。


 剣技は完全に互角。


 いくらカンスト破壊をしようとレベルアップ加速があろうと、レベル99熟練度99の魔王は最強かつ最凶の存在。


 レベル200熟練度77の勇者でも、相手は容易ではない。

 そして、戦いは、魔法戦へと移行していく――。


「おまえ、途中からほとんど魔法使ってなかったろっ? なんだ、やっぱりほかの仲間の活躍の余地を残すためにあえて使わなかったのか? そうだろ?」


「魔力を消費せずに済むのならそれに越したことはない。いざというときに回復魔法をとっておいたほうが理に適っている」


「はははっ! やっぱり理性的で理知的だな、第九十八代魔王、いや第九十九代勇者様はよぉっ! 俺なんか魔力があったらバンバン攻撃魔法使ってたからなっ!」


 元魔王勇者と元勇者魔王は性格も戦い方も対極に位置する。だからこそ、戦うことがこんなにも楽しい。


「よっし、ミカゲや四天王相手にも使えなかった極大魔法、どんどん使ってやるぜっ! 死ぬんじゃねぇぞ!」


 元勇者魔王の身体から闇の闘気が奔流のような勢いで湧き上がる。


 ここであえて剣で突っこんで魔法発動前に斬りこむという手はあるが――ルーファも己の魔力を最大限まで高めていく。


 なぜならば――そのほうが楽しいからだ。


 元魔王勇者と元勇者魔王が極限まで魔力高めあったことによって、天は闇に覆われ、地は震え、暴風が吹き荒れ、雷鳴が轟く。


 それはあたかも終末の天変地異。


 鍛えあげられた元魔王勇者と元勇者魔王の戦いは、もはや神話の中の神々の戦いの様相を呈していた。


「よぉっし! いくぜぇえええええええええええええええええええええええええ!」

「うむ、こうなったら存分に戦おうではないか!」


 もうそこからは戦いという生易しい言葉では表せない領域になった。


 もしこの場面を見ることができる冒険者がいたら、連続する天変地異、終わりなき災厄としか映らないだろう。


 荒れ狂う炎、すべてを凍らす氷、命を刈り取る風、存在を一瞬で消し飛ばす雷、次々と崩落していく大地。それがエンドレスで続いていく。


 元魔王勇者と元勇者魔王は極大魔法の応酬をしながらも、再び剣を構える。


 そして、天変地異級の魔法をぶつけあいながら、お互いの心技体すべてを注ぎこんだ最強の剣技で斬り結ぶ。


 もはや余人の入る領域など一切なかった。


 元魔王勇者と元勇者魔王のすべてをぶつけあった最高のバトル。それはふたりにとって全存在を賭して初めて味わえる最高のエンターテインメント。


 元魔王勇者と元勇者魔王は一秒を惜しむようにお互いの魔法と剣技をぶつけあい、傷つき、攻撃し、かわし、防御し、一分の間に果てなき数の攻防を繰り広げる。


 その間、世界の終わりが今訪れたといわんばかりの天変地異が発生し続けた。

 大地が“崩落”したことによって足場が悪くなったふたりは、すでに空に立っていた。


 魔力を使って己の身体を浮かせることは、かなりの高等魔法。


 それでいて地上にいるときと遜色ない肉体の動きを再現することは、人知を超える魔法制御能力が必要だ。


 だが、そんなものは元勇者魔王にも元魔王勇者にもかかわりない話だ。


 戦い続けるためには――もっと楽しむためには、どんなことでも可能にする。

 それが究極の戦闘バカたちだった。


「ははっ! やっぱり強ぇなぁ!」

「……同意であるな」


 それぞれ少なからぬダメージを追っているふたりは、久しぶりに会話をかわした。


 かすり傷ひとつで致命傷。だから、かすり傷にならないようにすべての攻撃を避けているのだが――それでもふたりは頭部から血を流し、鎧は黒焦げになり、足元もボロボロになっていた。


 だが――表情はこれ以上ない充実感に満ちている。


 今、世界で最も楽しいことをしているとばかりに元勇者魔王は笑う。

 元魔王勇者も口元を綻ばせる。


 有史以来続いてきた勇者と魔王の戦いにおいて――ふたりの戦いは史上最高のものになっていた。


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