第30話「四天王攻略!」

☆☆☆


「リイナ、いくぞ!」

「うんっ!」


 相手と戦っているうちに、だいたいのパターンやクセが読めてくる。


 ゲルガンの魔法がきたあとにガルガンの攻撃が続き、こちらが反撃しようとすると防御担当のゴルガンが立ちはだかる。

 なら、どうするか――?


「まずは、攻撃が一番強いやつから倒せばいいでしょ!」

「うむ。防御力が強いのなら、最後にじっくり倒せばいい!」


 リイナとルーファはガルガンに目標を定める。


 そうすることでゲルガンの魔法やグルガンの攻撃があたる可能性も高まるが、そちらのダメージはそこまでではないので無視する。


 四人に平等にダメージを与えることは愚の骨頂。まずは一体を集中攻撃して倒すのが、これまでの戦闘経験で得た知恵だった。


「舐めるなぁ! そう簡単にやられんぞ!」


 標的にされたガルガンは剣を振るって反撃してくるが、敏捷性はルーファとリイナのほうが上だ。


 ルーファとリイナは前後や攻撃したり左右から挟み撃ちしたりしながら、ガルガンのヒットポイントを少しずつ削っていく。


 その間、ゲルガンとゴルガンから攻撃を受けるが、かわせるものはかわし、防げるものは防ぐ。それでも攻撃がかすったりして軽いダメージは溜まっていくが、まずはガルガンを倒すことに集中する。


「ぬうっ、お、おのれぇっ」


 集中攻撃を受け続けたことで、ガルガンの攻撃もかなり大振りになっていた。

 ダメージが蓄積することで攻撃の精度にまで影響が出てくるのだ。


「よぉっし! あとちょっとぉ!」

「うむ、一気に倒すぞ!」


 ほかの四天王たちもガルガンの窮地を救うべく攻撃をしかけてくるが、勢いに乗ったルーファとリイナはそれをかわし、ガルガンに殺到する。


「ええいっ!」


 相手の振り下ろす剣よりも早くリイナが腹部に右ストレートを叩きこむ。

 そして、リイナが駆け抜けて後方に抜けたところで――。


「すまぬな、だが、これがバトルだ――!」


 ルーファがエクスカリバーでガルガンを真上から一刀両断する。


「ぬぐぁあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 魔王様、万歳ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 ガルガンは忠誠を誓う魔王を絶叫で讃え――霧消していった。


「魔王様万歳、か……ここまで部下に愛されるとは、素晴らしき魔王のようだな」


 元魔王勇者としては複雑な心境であった。


 だが、ここまで部下からの信頼を得た魔王というのも古今稀だろう。自分の代よりも四天王は明らかに魔王に心酔していた。


「ルーファ、次、いくよっ!」

「……うむ!」


 戦闘はまだまだ継続中だ。そして、一瞬の油断が強敵との戦いでは命取りになる。気持ちを切り替えて次の戦闘に移る。


 ルーファとリイナは次の目標であるゲルガンへの攻撃を開始する。

 対する四天王はガルガンがやられたことで連携が乱れていた。


 そこを見逃すルーファとリイナではない。


 ゲルガンをふたりで連携して攻めていき、苦し紛れに放たれる魔法をよけ――今度はリイナの回し蹴りが思いっきり頭部に炸裂。クリティカルヒットとなった。


「ぐはぁっ……! ま、魔王様、申し訳ありませんっ……! 奴らの強さは、想像以上でございましたぁっ……!」


 もともと魔力特化でヒットポイントも防御力も低いゲルガンはリイナの破壊的な一撃を受けて霧消する。


 残るは、ゴルガンとグルガンである。


「ぬうう、こうも勇者たちが強いとは……」

「かくなる上は、玉砕あるのみ!」


 ゴルガンとゲルガンはせめて勇者に倒されることを求めるようにルーファに殺到する。


「その意気やよし! それでこそ魔王軍の四天王である」


 ルーファはかつては部下だったゴルガンとゲルガンと渡りあう。


 すさまじい敏捷性を誇るゲルガンと他者から目視すら難しい攻防を繰り広げ、捨て身で襲いかかってくるゴルガンと真っ向からぶつかりあう。


 攻防が瞬時に入れ替わる激しい戦闘。


 この中に入っていけるのはリイナだけだが、ルーファがかつての部下との戦闘を心から楽しんでいることを感じたリイナは、あえて戦闘範囲に踏みこまない。


「本当に強くなったものだな、四天王たちは……!」


 前代の四天王と魔王の差には歴然たる差があった。

 だが、今の鍛え上げられた四天王の力はすさまじい。


 それでも――元魔王勇者ルーファはその上をいく。


「さらばだ! おまえたちとのバトル、本当に楽しかったぞ!」


 ルーファは魔王時代から培った剣技と勇者時代に培った剣技をあわせた史上最高の斬撃を聖剣エクスカリバーで繰り出して、瞬く間にゴルガンとグルガンを悠久の天地の彼方へと霧消させた。


「すまぬな、最期の言葉を言わせぬほどの斬撃を見舞ってしまった。それほど、おまえたちは我を本気にさせたということだ。アッパレであったぞ」


 戦闘が終了し――ルーファとリイナの体が光に包まれてレベルアップをする。


 ルーファとリイナは、それぞれレベル200熟練度77に達した。さすが鍛え上げた四天王相手の経験値は膨大だった。なお、熟練度が上がりにくいのは、あまりにもレベルが高すぎるからである。


「いやぁ、本当にリイナもルーファも強いなぁ! すっかり足手まといだぜ!」

「本当に子どもの成長は早いものですね~♪ 本当に頼もしいです~♪」


 カンスト状態のアーグルとルナリイのレベルは上がらなかったが、ふたりは我がことのように娘と息子のレベルアップを喜んでいた。


「でも、おとーさんもかっこよかったよ! おかーさんをしっかり守ってて!」

「父上が母上を見事に守り切ったおかげで、我とリイナは戦闘に集中することができた」

「へへっ、そりゃあ、愛するルナリイに怪我をさせるわけにはいかねぇからなぁ~」

「うふふ~♪ あなたも本当に頼もしかったです~♪ ありがとうございます~♪」


 ルナリイに抱きつかれてアーグルはデレデレしていた。


「も~、本当におとーさんとおかーさんはラブラブなんだから~。こっちはたいして進展してないのに~」


 リイナは不満げに頬を膨らませる。そして、怒った顔のまま、くるっとルーファのほうを振り返る。


「ね、ルーファ! ……ルーファはあたしのこと好きなんだよね?」

「な、なにを言っているのだ、リイナ……」

「ストレートに! 簡潔に! 正々堂々、真正面で! イエスかノーか! それだけ聞かせて!」


 すごい剣幕で迫ってくるリイナの気迫に負けて、ルーファはありのままの心を答えることにする。


「……イエスだ。我はリイナを愛している」


 すると、リイナの顔がみるみる赤くなっていく。


 ルナリイは「あらあら~♪」と頬に手をあてて微笑ましいものを見る目でふたりを見つめ、アーグルはこの世の終わりのような顔をしてその場に崩れ落ちた(というか口から泡を吹いて失神した)。


「も、もうっ! そ、そんなストレートに!」

「ストレートにと言われたから、そう答えたのだが……」

「あんっ、もうっ、嬉しいけど恥ずかしい! あーーーーーー! もーーーーーー!」


 リイナはたまらず広間を駆けだしていってしまった。


「む、リイナ、ひとりで進むのは危険だぞ」

「うふふ~♪ リイナ戻ってらっしゃい♪ ちょっと回復して休んでから上の階へ行きましょう~♪ 特に、おとーさんの状態異常は深刻ですし~♪」

「ぶくぶくぶく……」


 完全にアーグルは戦闘不能状態になっていた。

 心のダメージは、時に肉体のダメージを凌駕するのだ。

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