第27話「隠れレアスキルと恋愛経験値と四天王のダンジョン」

★★★


「リュータ……ついに勇者のパーティが四人揃って、ダンジョン攻略に入るみたい……」

「なんだってぇ!?」


 勇者たちの情報を確認するためにいったん魔王城へ戻っていたルーファは、ミカゲからの報告を受けて驚きの声をあげる。


「しかも……勇者のパーティが……見てみて?」


 ミカゲは水晶をズイッと差し出す。


「ちょおぉおおっ!? アーグルにルナリイじゃねーかっ!?」

「ん……わたしたちが日々戦闘鍛錬に明け暮れているうちに合流したみたい……しかも、レベリングもして装備も整えて、かなり準備万端な感じ……」


 一方で、連日の戦闘鍛錬で四天王たちはズタボロだ。

 今は別室で休んでいるというか、気絶して倒れこんでいる。


「あー、闇の力で一応全回復できるんだっけか? でも、表面上体力回復しても、疲れってのは体から抜けきらないもんだからなぁ……」

「ん……アイテムで回復した場合と宿屋で回復した場合、やっぱり宿屋のほうが体も魔法も快調な気がする……。……でも……リュータ……本当に戦うの? 四人と……」


「うーん……かつてのパーティやその家族と戦うのもどうかと思うんだよなぁ……元魔王だけなら問題なかったんだが……でも、せっかく鍛えた四天王だしなぁ……」


 このまま魔王として、勇者パーティに立ちはだかるか。

 それとも、元仲間たちと戦わない道を選ぶか。


「……戦闘狂の俺としては、アーグルやルナリイはともかく、元魔王のやつとは全力で戦ってみたいんだよなぁ。あのときの決着をつけたいし」

「ん……わたしも、あのときの勝負の続きを、してみたい……。魔王に挑んだときのあの高揚感と興奮、今でも覚えている……」


「とりあえず、四人が魔王城に来るまで保留かなぁ……まぁ、これだけ鍛錬したら相手にならねぇ気もするが……というか、四天王も鍛えすぎちまったから、史上最強の四天王になってるかもな……」

「……勇者パーティが西のダンジョンの入口近くまで来てるみたい…。…どうする? ……このダンジョンは四天王随一の防御力を誇るゴルゴンの拠点だけど……闇の力で全回復してから転移陣で送る……?」


「んー……」


 リュータは腕組みし、目をつぶって考える。


「そうだ、いまの勇者パーティのレベルがどれくらいかわかるか?」

「ん……水晶の力で調べてみる……」


 ミカゲが手をかざすと、水晶が青く輝き始める。

 そして、輝きがおさまるのに反比例するようにミカゲの目が見開かれていく。


「……そんなっ……」


 ミカゲは絶句して、まじまじと水晶を見つめる。


「どうした、ミカゲ?」


 リュータも水晶を覗きこむ。


「なにぃいいいいいっ!?」


 またしても、魔王の居室に元勇者魔王の驚きの声が響いていった。


☆☆☆


「ふえ? 隠れレアスキル『レベルアップ加速』と『カンスト破壊』?」

「それが、我とリイナに……?」


「ええ、そうですよ~♪ ふたりにはその隠れレアスキルがあるのですよ~♪ ふたりにそのレアスキルがあることは子どもの頃からわかってたのですが、自分にそういうスキルがあるとわかっていると教育によくないと思って、黙ってました~♪ ですから、ふたりだけでこのフィールドまでこれたのですよ~♪」


「いくらふたりが強いっていっても、最強装備の俺とルナリイがこのフィールドにやっと辿りついたんだぜ? 前回の冒険だと、四人で辿りつけたわけだしな。しかも、ふたりの装備、最初の頃とあんまり変わってねぇじゃねぇか?」


「うん、お金もったいないから、節約してたんだよねー。結局、二回ぐらいしか装備変えてないよっ!」

「我は、トカゲ騎士の形見をそう簡単に手放すわけにはいかぬ……」


 そう。ふたりは節約志向だったので、あまり装備にはこだわらなかったのだ。何度かステータスアップアイテムは使ったが、あとはもっぱらレベリングでここまで来たのだ。


 なお、稼いだお金は膨大な量になったので分散して冒険者専用王立銀行(主要な都市に設置されている)に預けている。


「……いくらなんでも強すぎると思ったら、そんな隠れレアスキル持ってるとはなぁ……。にしても、ルナリイ。そんなスキルをふたりが持ってること、俺にも教えてくれてよかったじゃねぇか」

「あなたにしゃべったら、話しちゃいそうでしたから~♪」


「でも、あたしたち序盤のほうはけっこう苦労したよ? 洞窟一回撤退したし」

「『レベルアップ加速』はレベル8を超えたあたりから一気に加速していきますから~。でも、今回は魔物が強化されていたので、あまり実感はなかったのかもですね~」

「んー、確かにあのトカゲ騎士ってのを倒したあたりからすごく強くなった気がする!」

「うむ。、確かにそうかもしれぬ」


 レベルが上がったことは実感していたが、カンスト後の裏ステータスまでしっかりと見られるルナリイのような白魔法の使い手でないと真の情報を知ることはできない。


「うふふ~♪ いまのふたりのレベルは~、見かけはレベル99ですが、裏ステータスでは120です♪」

「えええっ! レベル120!? レベルって99までじゃないの? あっ、これが『カンスト破壊』ってやつか!」


「ええ、わたしたちが前回の旅でこのフィールドに辿りついたときはレベル90でした~。リュータくんはレベル99ミカゲちゃんは95でしたけど~」


「ちなみに、いまの俺たちはレベル99だ。残りの9レベル、今回の旅で上がったぜ。魔物強くなってたし経験値もすごかったしな。……ま、加齢によって、ステータスの最大値は落ちまくってるがなぁ」


「あなた、歳の話題はやめましょう~♪」

「おっと、すまねぇ、いくつになってもルナリイは美人だぜ!」

「うふふ~♪ ありがとうございます~♪ あなたも変わらずステキですよ~♪」

「もー、わたしたちの前でイチャイチャしないでよ……」


 ジト目でリイナはバカップル両親を見つめる。


「うふふ~♪ 前回の冒険のときも、よくリュータくんとミカゲちゃんから怒られたものでした~♪」

「というか、リュータとミカゲこそくっつけばよかったのによぉ! 俺はよぉ、あいつらほど似合うカップルもいないと思ったぜぇ?」

「そうですよね~♪ ふたりともお似合いのカップルになれたと思います~♪ 案外、今はふたりでラブラブしてたりするかもですね~」


★★★


「……な、なんで恋話になってるの……? ……これだからリア充カップルは……」

「なっ、なに言ってんだ、あいつらはっ……!」


 水晶を前にして、リュータとミカゲは赤面していた。

 お互いチラッと視線を向けて目があい、バッと顔を反対側に向ける。

 ふたりとも戦闘経験は豊富でも、恋愛経験値は限りなく0に近かった。いや、0だった。


「……そ、それにしても……まさかレアスキルを持っているなんて……」

「お、おう……そうだな……俺が勇者時代に持ってなかったレアスキルをふたつも持っていやがるとはな……レベル120とか、なんだよそりゃ……」


 とりあえず、ふたりはバトル関連の話をすることでいつものペースに戻すことにした。どんな攻撃や状態異常にも耐えるふたりだが、恋愛っぽい空気は苦手だった。


「……で、ど、どうする? 四天王……」

「お、おう、そうだな……」


 いまの四天王は連日の鍛錬疲れで肉体も精神も悲鳴を上げていた。いくら表面上全回復してもパフォーマンスの低下は免れない。

 それに―ー。


「勇者時代も思ってたんだが、四天王って、わざわざひとりずつ拠点にこもってたから、ボス戦が楽だったよな?」

「……ん……四天王が同時にボスとして出てきたら、ものすごく苦戦してたと思うし……そっちのほうが絶対に戦闘が楽しかったと思う……」


 せっかく、攻撃・防御・素早さ・魔法――とそれぞれ突出した能力を持っているのに、一対四で戦う挑むから勇者パーティにボコられるのだ。


「なら、四天王を同時にぶつけたらいいんじゃね?」

「……確かに……それなら四対四の手に汗握る超楽しいバトルになること間違いなし……むしろ、わたしが戦いたいぐらい……」


「だろ? だから、もともとあったダンジョンの最下層に魔王城への鍵は置いておくけど……四天王は魔王城で四人まとめて戦わせればいいだろ!」

「なるほど……そうすれば、四つのダンジョンも無駄にならない……そして、四天王もこれまでの鍛錬でボロボロになった心身を全回復することができる……」


「ああ、どうせなら、最高のコンディションで四天王も戦わせてやりたいしな。せっかく鍛えてやったんだし。……それと、あのチートスキル持ってるふたりも、どうせならもっと強くなってから戦いてぇよな!」

「ん……最高のコンディションで最強の敵と戦ってこそ、バトルは楽しい……」


 バトル狂のふたりの意見は一致した。

 こうして、魔王軍の歴史上初めて四天王のダンジョンに四天王が不在ということになった。

 つくづく掟破りの魔王と側近なのであった――。


☆☆☆


 数日後――。


「んー、おかしいぜ、こりゃあ……」


 東西南北四つある四天王のダンジョンのうちのひとつ――西のダンジョンを攻略し始めて、四時間。ルーファ、リイナ、アーグル、ルナリイの第九十九代勇者パーティは順調に敵を倒し続け、ついに最深部にやってきたのだが――。


「あら~……前回は、ここに四天王がいたはずなんですが~」


 そう。四天王がいるべき最深部の広間には誰もいなかった。


「あっ! 奥の壁のところに宝箱があるよっ!」

「む……罠か?」

「ちょっと魔法で調べてみますね~」


 ルナリイが宝箱の前で杖を振るい、トラップ探知の白魔法を行使する。


「……どうやら、罠ではないみたいです~」

「わーい、じゃ、開けるねっ♪」


 リイナが宝箱を開けると、そこには鍵が入っていた。


「これは……魔王城の鍵であるな……」

「ああ、前回のときも魔王城の扉を開けるのに使った鍵だぜ! 四人倒して四つの鍵を手に入れねぇと魔王城の扉が開かないんだよなぁ」

「四天王を倒さずに鍵を渡すとはどういうことでしょうか~?」

「ボス戦に臨む気マンマンだったから拍子抜けしちゃったー。せっかくガンガン闘いたい気分だったのにー」


 拍子抜けしながらも、四人はボス戦なしで最初のダンジョンを攻略。

 魔王城の扉を開けるために必要な四つの鍵のうちの一つを手に入れた。


☆ ☆ ☆


 そして、第九十九代勇者パーティの四人は拠点の宿屋に戻って休息をとり、翌日は休息および回復薬などを買い揃えて、翌々日に別のダンジョンに挑んだ。


 だが、そこのダンジョンの最深部も同様にボスがおらず代わりに宝箱に入った鍵があった。ただ、ダンジョンの敵は強かったし途中でレアな武器や防具の入った宝箱もあったので、着実に戦力は上がった。


 そして、三つ目、四つ目のダンジョンも同様に潜っていき――最後のダンジョンも攻略した。


「んー、結局、ここのダンジョンにも四天王がいなかったねー」

「うむ……我が魔王だった頃からは考えられぬ……こうなると、魔王城に四天王を集めているということであろうな……」


「まぁいいじゃねぇか。おかげでいいレベリングになったぜぇ! 宝箱の中身も大盤振る舞いで、ステータスアップのアイテムもいっぱいでてきたしなぁ! というか、エクスカリバーが宝箱から出てくるたぁ、驚いたがな! 本来は山奥で翼竜と戦って倒さないと手に入れられねぇんだぜ! あのときは死ぬかと思ったもんだがなぁ」

「わたしたちがダンジョンを攻略したときはこんなに宝箱出ませんでしたし、こんなにレアな武器や防具は出ませんでした~」


 おかげで、ルーファとリイナのレベルは150に達していた。

 しかも、最強の武器と防具も手に入れて、各種ステータスアップアイテムも使うことができたのだから戦力は大幅にアップしていた。


「なんか強くなりすぎて、ザコキャラは拳一発で消し飛んじゃってつまんなーい!」

「我が魔王だった頃よりも魔物は強くなっていたのだが……それ以上に我らは強くなりすぎたようであるな……これがレアスキルの効果か」


 試しに最強装備にしてみたルーファとリイナだが、向かうところ敵なし状態だった。ほとんどの敵を瞬殺してバトルがすぐに終了してしまう。


「ふたりとも俺たちの全盛期とは比べ物にならないほど強くなってるぜ!」

「本当にふたりとも強くなっちゃいましたね~」


 そう言うアーグルとルナリイも各種ステータスアップアイテムのおかげで全盛期と遜色ない戦闘能力になっていた。


(我が魔王のときにも宝箱を設置したが……ここまでステータスアップアイテム数を増やすとは……)


 まるで勇者パーティを史上最強にしようとでもいうかのようだ。


(これは逆に魔王側の自信の表れかもしれぬな……よほど今回の魔王は強い、ということであろう……あの元勇者が魔王となっているのなら、うなずけることであるが……)


 とにかくも、四人はすべてのダンジョンを攻略して魔王城の扉を開くために必要な鍵を四つ集めることができたのであった。


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