第26話「前世が魔王であることの告白」

 だが、これはいい機会だ。

 このまま隠し続けることはフェアではない。

 抱いている感情が愛情に発展しつつある今こそ、言うべきだと思った。


「……我の前世は魔王なのだ」

「え、ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 ルーファの告白にリイナは驚きの声をあげる。だが、ルナリイは表情を変えずニコニコしている。床に転がったアーグルは依然として涙を流し続けていた。


「そうなのだ。我は元魔王……世界を不幸のどん底に突き落とした張本人。だから、我は人を愛してはならぬ、幸福になってはならぬ……我の命は、魔王を倒すために使うべきものと思っている」


 魔王は愛を知らず、恋を知らない。戦いのみを知る。


 だから、人間となっても愛や恋というものには鈍感だっだ。鈍感になろうとしていた。だが、宿屋に引き取られて家庭の温かさを知り、リイナと一緒に同じような家庭を築いてみたいと思うようになっていた。

 しかし、ルーファは元魔王である。転生したとはいえ、その事実は消えない。


 歴代魔王の中で最も理性的と言われたが、自分の存在とともに魔族と魔物も世界に出現し少なくない命を奪った。魔王としては直接手を下して殺めた者はいないが、それでも使用者としての責任は感じる。


「でも、そんなの関係ないよ! いまのルーファはルーファだもん! 前世は前世、ルーファはルーファだもん! だから、今の自分の幸福を否定するようなこと言っちゃだめだよ!」


 リイナは怒ったような顔で、そんなルーファを否定した。


「しかし、我は……」


「うふふ~♪ リイナの言うとおりですよ~♪ 前世は前世ですから~。わたしたちも、そう思ったから、ルーファを引き取るって決めたのですよ~♪」


「えっ! おかーさんとおとーさん、ルーファが魔王の転生だったってわかってたの?」

「ええ、お顔もしゃべり方もまったく一緒でしたから~」


「……母上、父上……まさか我が元魔王と知って引き取ってくださったとは……」


 魔王最期の記憶ではこちらに立ち向かってきた戦闘狂の勇者と不気味な黒魔法使いの印象が強すぎて、サポートに回っていたルナリイとアーグルのことは朧気(おぼろげ)だった。


 戦闘突入直前前に魔王と勇者の長めの会話はあったが、話したのは勇者リュータだけ。一緒にいた勇者パーティの白魔法使いや格闘家、黒魔法使いがどんな口調で話すかなど覚えているはずもなかった。水晶で眺めることはあったが、勇者以外の顔はしっかりと覚えてはいなかった。


 だから、ルーファのほうはアーグルとルナリイと初めて会ったときに気づかなかったが――ルナリイとアーグルは違った。こちらの正体をわかったうえで、自分を引き取ってくれていたのだ。


「ですから、いいと思いますよ~♪ 人を好きになっても幸福になっても~♪ 一緒に暮らしてきて、ルーファが思慮深くて、思いやりのある子だってよくわかってますから~♪ ルーファなら安心してリイナを任せられます~♪ だからこそ、ふたりを冒険に出したのですから~♪」


 ニコニコと笑みを浮かべるルナリイに、ルーファはそれ以上なにも言えなかった。


(我は…………我の生き方、我の考え方は……間違いだったというのか……? しかし、世界を救うために戦った元勇者であるリュータは、おそらく今は魔王になっているだろう……では、リュータは悪か……?)


 それこそ、幸せになるべきは度が過ぎた戦闘狂だったとはいえ勇者リュータと黒魔法使いミカゲではないだろうか。


(なんという……運命なのだ……。……神は……なんという運命の悪戯をしたのだ……)


 理知的な元魔王は、ただ自分の幸福だけを追求することはできなかった。

 だが、それでも――。


「ルーファ、これからも、あたしたち一緒だよ! ひとりぼっちでで不幸になんてさせないからね!」


 こうして幸福を願ってくれるリイナの存在は本当に温かくて――。


「そうですよ~♪ 人間はみんなで助けあうものですから~♪ ひとりで抱えこむことはだめですよ~♪」


 ルナリイの言葉も、心に響いた。


「……んん……ったく、しょうがねぇなぁ、ルーファもリイナも……リュータもミカゲも……俺とルナリイがしっかりサポートするから、しっかりやるんだぜぇ……むにゃむにゃ」


 そして、アーグルは家族とかつての仲間を支援する夢を見ているようだった。


「おそらく……現魔王はかつての勇者リュータだと思う。そして、ミカゲという黒魔法使いも、おそらく魔族側に転生していると思う。だから、もし戦わずに済むのなら、それが一番だと思っている。魔王と勇者の和平……こんなことが可能かどうかわからぬが……力を貸してほしい」


「わたしも、その可能性が高いと思っています~。わたしたちが旅に出ることにした理由はそれもあります~。噂では魔王と側近らしき存在が荒野で魔族たち相手に鍛錬をして天変地異級の破壊をしているそうですから~、おそらくその戦闘狂っぷりと魔法狂っぷりからするとリュータくんとミカゲちゃんだと思います~」


「えええっ、じゃ、今の魔王が元勇者なの!? ということは、おかーさんとおとーさんのかつてのパーティ!?」


「ええ~、おそらくそうです~。……ですから~、この戦い、やはりわたしたちも参加しないといけないのだと思います~。わたしたちが説得してどうにかなるのなら、それが一番ですし~、もしだめなら、そのときはかつての仲間として、戦わねばと思います~」


 いつもはニコニコしているルナリイが、辛そうな表情を浮かべていた。


「うー、なんだか複雑すぎて頭パンクしそうだけど、とにかく魔王城へ行って話しあえばいいんだよね! そして、相手がわからず屋だったらぶっ飛ばしちゃう!」


「……うむ。つまりは、そういうことであるな」


「ええ、それでは、四人で戦ってパーティとしての練度を上げてから、四天王のダンジョンを攻略して魔王城へ向かいましょう~」


 こうして、ついに勇者パーティが四人になり――そして、これからの冒険の方針が決まったのだった。

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