第25話「やってきた冒険者は――」
「店主、今夜の宿とれるかぁ?」
「夜分遅くにすみません~。冒険者です~」
宿の玄関が開けられて、ふたりの冒険者が入ってくる。
その冒険者は年季の入った装備であるが――それが魔王城や四天王のダンジョン最奥部でしか手に入らない最強装備であることを元魔王のルーファは知っていた。
そして、なによりも――知っているといえば……。
「ええっ!? おとーさんっ、おかーさんっ!」
そう。古びた最強装備をまとった冒険者ふたりは――アーグルとルナリイだったのだ。
「おー、リイナ、ルーファ! やっと会えたかぁっ! いやぁ、ずいぶん先まで進んでたんだなぁ!」
「あらあら~♪ リイナもルーファも、すっかりたくましくなって~♪ ふたりとも、もう立派な冒険者ですね~♪」
ルーファとリイナを見つけたアーグルとルナリイは笑みを弾けさせる。
「ちょ、ちょっとなんで、おとーさんとおかーさんがここに来てるの? 宿屋は?」
「ああ、『若者の冒険離れ』ってやつが深刻でなぁ……。うちの宿屋も商売上がったりだし、どいつもこいつも冒険を途中でやめちまう奴ばかりらしくて、これじゃリイナたちもパーティ組むの苦労すんじゃねぇかって思ってな」
「ええ♪ 宿屋はお休みにして、思いきって冒険に出ることにしちゃいました~♪ 最初はふたりの邪魔をしてはいけないかとも思ったのですが~、今回の魔物はみんなすご~く強いみたいですし~……心配で、いても立ってもいられませんでした~」
「父上と母上のその装備は?」
「あっ! なにそのすっごく丈夫そうな鎧とか魔法力高めちゃいそうな杖!」
リイナも両親の最強装備を見て目を丸くする。
「ああ、俺たちも昔は魔王城まで冒険したわけだからな! そのときに使ってた装備を倉庫の奥にしまってたんだよ! まさか、再び役に立つ日が来るたぁなぁ!」
「うふふ~♪ 冒険の思い出が詰まった大事な装備だったので、記念にとっておいたのですよ~♪」
「もー、それだったらあたしたちにも最強装備のひとつやふたつ持たせてくれればよかったのにー!」
「それでは、冒険の楽しさが半減してしまうでしょう~? リイナとルーファにもレベリングの楽しさを知ってほしいという親心ですよ~♪」
「うー、まぁ、確かにレベルが上がる楽しさは味わえたけどね」
「なるほど……さすがは母上と父上」
最強装備を初期から持っていたら、苦労せずに冒険はできただろう。だが、その結果――ふたりの連携プレイは向上しなかっただろうし、武器の熟練度も上がらなかったことだろう。
「ま、俺たちも努力して昔は強くなったからなぁ。どんなチートな武器も防具も努力には勝てねぇ! 努力に勝るチートはねぇんだ! 昔鍛えたから、俺たちも三十超えてもここまで来れたわけだからなぁ!」
「ええ、やはりレベリングと熟練度アップが冒険の醍醐味ですから~♪ 十五年ぶりでも、体は覚えているものです~♪」
さすがはかつての勇者パーティだったふたりだ。いくら最強装備があるとはいえ、十五年のブランクを埋めるのは容易ではない。そこはやはり経験だろう。
「まさか仲間がおとーさんとおかーさんになるとは思わなかったけど、これでパーティの四人が揃ったね」
「うむ……これで、四天王のダンジョンに挑める」
ダンジョンになるとさらに敵の強さも増してくる。いくらひとりひとりの力が強くても、四人の力をあわせないと攻略は厳しい。
「……まぁ、でも明日はちょっと休ませてほしいところだなぁ。今日は夜まで戦闘になっちまって体がクタクタだしよぉ……」
「ええ~、思った以上にこのフィールドの敵が強くて、戸惑ってしまいましたね~。前回通ったときはこれほどじゃなかったのですが~。やはりふたりだけだと戦いも大変ですね~。前回このフィールドにきたときは四人揃ってましたから~。ですから、ルーファとリイナがふたりの力でここまでこれたのはすごいことですよ~?」
「そうなんだ! なんか戦いが楽しくなっちゃって、ルーファとの連携もバッチリで向かうところ敵なしだよね!」
「うむ。我とリイナの連携はバッチリだ」
「うふふ~♪ ふたりとも順調にコンビになってるんですね~……それで、ふたりの仲はどこまで進みましたか~? もうカップルになりましたか~?」
「ふえっ!? ちょ、おかーさんなに言ってるの!」
「む? 母上、それは、どういう……
「うああ、やめてくれぇー! リイナ、まだまだおまえに結婚は早ーい!」
ルナリイはニコニコ笑みを浮かべる一方、娘のリイナは赤面し、朴念仁の元魔王は意味を図りかね、子煩悩な父親はこの世の終わりのような顔で頭を抱える。
「わたしたちが前回このフィールドにきたときは、もうかなりラブラブでしたから~♪ ルーファとリイナもけっこういい感じになってるかな~と思ってたのですが~」
「も、もうっ! おかーさんったら! あたしとルーファじゃ、そういう仲になるわけないでしょ!」
「母上、そもそも我とリイナは家族同然。そのような仲になることは……」
「家族同然に暮らしてきたといっても、ふたりに血縁関係はないんですよ~? ですから、ふたりは自由に恋愛していいんですよ~? わたしとしては、ルーファを引き取ったときは将来のリイナの婿候補と思ってましたから~」
「ぐあああーーー! やめろ、やめてくれ、ルナリイーーーーーーーーーーーーー!」
アーグルはかつての冒険でも見せなかったような醜態をさらして、床に転がる。
「もう、しかたないですね~♪ え~い、睡眠魔法♪」
「……うぅ……リイナー……お父さんを置いてかないでくれぇ……ぐぅぅ……」
アーグルは床で眠りながら涙を流し始める。
「まったく、いつまでも娘離れできない父親は嫌われますよ~? ふふ、それで、本当にふたりに恋愛感情みたいなのはないんですか~?」
「えっ、そ、それはぁっ……って、もうっ、なんでおかーさんとルーファの前でそんな話しないといけないのよっ」
リイナは赤面してあたふたしながらも、チラチラとルーファのほうを見てきた。
だが、ルーファは顔を伏せる。
「……我に、人を愛する資格などない、と思っている」
その言葉に、リイナは「えっ……」と絶句する。
「……どういう意味? なんで、ルーファは人を愛する資格がない、の?」
「それは……」
その理由を言うことは、自分の前世を明かすことにつながる。
ルーファは迷った。
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