第21話「初めてのボス戦」
☆☆☆
「ルーファ、なんかこの先ボスがいるっぽい雰囲気じゃない?」
狭かった洞窟内の通路が急に広くなって、向こうのほうに仁王立ちする存在が見える。
「うむ、そうだな……おそらく、ボスだろう」
基本的には、各洞窟に指揮官たる魔族と、配下の魔物がいる。もっとも、魔物は魔族の言うことを聞かないことも多いが。
(あの姿……間違いない、あやつだな……)
どうやらダンジョンで出てくるボスは自分が魔王のときと変わらないようだ。
「ルーファ、ボス戦の前に回復しておこうよ」
「うむ、そうだな……。こちらが回復するまで待ってくれるとは、さすがは誇り高き魔族であるな……」
こちらの姿は向こうからももう見えている。
それでも、回復中のこちらに攻めてくることなく、どっしりと待ちかまえていた。
その姿は騎士道や東方の島国にあるというブシドーを感じさせるものがある。
ルーファとリイナは薬草を使ってヒットポイントを全回復。
ついでに、これまでに魔物が落としたステータスアップアイテムを使ってリイナの攻撃力と防御力を上昇させた。
「ありがとうルーファ♪ あたしばかりステータスアップしちゃってごめんね!」
「うむ、乱戦になると助けにいけるかわからぬからな。いざとなったら自分の身は自分で守ってくれ。大丈夫だとは思うが」
魔王時代は回復アイテムもステータスアップアイテムも使ったことがなかったので、どうにも扱いに困る。なので、とりあえずリイナを強化することにしたルーファだった。
「よーし、それじゃ、ボスに挑もう!」
「うむ、二対一で誇り高き魔族と戦うのは少し気が引けるが……これも冒険者の戦い方であるしな」
「もう、ルーファは変なところで真面目なんだから! それじゃ、ボス戦開始ー!」
ルーファとリイナが仁王立ちする魔族――『トカゲ騎』士に近づく。
「来たな、勇者とその仲間」
トカゲ騎士は尻尾を振り上げて、地面に叩きつける。
続いて、手に持った剣を構えなおした。
「ここは某(それがし)が司る洞窟。通りたくば力づくで通るがいい」
古風な言葉づかいからも気骨が感じられる。
(……懐かしいものだな。最初のボスならば、やはりこのトカゲ騎士をおいてほかにはおらぬと思ったものだ……)
魔族道を体現したかのような品格あるトカゲ騎士には、魔王としても信頼を置いていた。
その部下と、勇者として戦うことになるとはどんな運命のいたずらであろうか。
「よーし、そっちがその気ならやっつけちゃうよっ! ルーファ、パターン1でいくよ!」
パターン1とは、リイナが突っ込む・ルーファがそれにあわせて背後から攻撃するという戦い方だ。
なお、パターン2はルーファが相手の背後をとって攻撃してからリイナが正面から攻撃する。どちらにしろ、リイナは正面から攻撃するだけだった。
「待て、リイナ。あやつは剣術に優れている。素手のリイナが正面から相手をするには少々部が悪い。我とトカゲ騎士が正面から剣でやりあっているところを、背後から攻撃するのだ」
「えー、あたし、正面から戦いたいのにぃ」
「しかし、危険だぞ? リイナが怪我をしたら困る」
「ルーファ、あたしのこと心配してくれるの?」
「無論だ。だから、正面は我に任せろ。我はリイナを怪我させたくない」
「……うんっ♪ わかった♪ 心配してくれてありがと♪」
相談がまとまり、ルーファは剣をかまえてトカゲ騎士と対峙する。リイナは半時計周りに駆けていって、トカゲ騎士の背後のほうに位置をとる。
トカゲ騎士はリイナの動きには目もくれず、ルーファに向かいあった。
「某は婦女子には剣を振るわぬ。戦うのは同じく剣を持つ勇者のみ」
厳かな口調で告げるトカゲ騎士。さすがは高貴なる魔族だ。
「我としても一対一で存分に戦いたいところであるが……冒険は、仲間との『チームプレイ』とやらも大事なようでな。申し訳ないが、二対一で戦わせてもらう」
「構わぬぞ勇者。我は魔族の誇りに従い、全力をもって戦うのみ! ゆくぞっ!」
「うむっ!」
トカゲ騎士が大上段から剣を振るうのに合わせ、ルーファもロングソードを振るう。
――ギィイイイインッ!
剣と剣がぶつかり火花が飛び散る。
お互いの力で剣が弾かれるも、すぐにルーファとトカゲ騎士は上段・中段・下段と剣を連続で振るい、派手に火花を撒き散らしてく。
「くくっ、やるではないか勇者」
「それは我の言葉であるな」
魔王時代なら瞬殺できるほどの力の差があったが、現在のレベルの勇者の身体能力と剣技では互角だった。
(もう少しレベリングをすべきであったか)
初めてのボス戦で、少し弱気な心が首をもたげる。
だが、そこで。
「大丈夫大丈夫、いけるよ、ルーファー!」
リイナが向こうから声援を送ってくる。
魔王時代なら真剣勝負の邪魔をするなと思ったところだろう。
だが、勇者となったいまは仲間の声援に背中を押される気がした。
「ふ、我らしくもないな。戦いとは楽しむものだ!」
戦闘魔族としての心を思い出して、元魔王勇者は剣を振るう。
たとえ体が勇者だろうと、心が魔王だろうと、やることは変わらない。
目の前の敵と全身全霊で渡りあい、倒す。
それこそが、戦う者のすべてだ。
リイナの声援で吹っ切れたルーファは次々に鋭い斬撃を繰り出して、トカゲ騎士を少しずつ後退させ、ダメージを与えていく。
剣先がかするたびにトカゲ騎士の革の鎧はこそぎ落とされ、青い血が飛び散る。
軽傷も積み重ねれば、大きなダメージとなっていく。
魔王時代のように圧倒的な一撃は放てないが――少しずつ相手を削っていくことに悦びを感じる。
「がんばれー、ルーファー!」
どうやら攻撃よりも応援を優先することにしたらしいリイナが、さらに声援を送る。婦女子を傷つけないと宣言したトカゲ騎士を背後から攻撃するほどリイナも空気が読めない子じゃないようだ。
「ぐぬっ、さすがは勇者といったところか。だが、某も最初にボス戦を任された者。このままでは終わらぬ!」
――バシィイイン!
勢いよく尻尾を地面に叩きつけるとともに、トカゲ騎士は後方宙返りをする。
「むうっ!」
突然のトカゲ騎士の行動に、ルーファの動きがとまる。
「もらったぁ!」
トカゲ騎士は着地するとともに低い体勢からルーファ目がけて猛然と突っこんできた。
両手に構えた剣の狙いは――心の臓。
「きゃあっ! ルーファッ!?」
回避は間に合わない。
「なら――!」
ルーファはロングソードの腹で殺到する切っ先を受けとめる。
――ギィイイイイイイイン!
わずかでもずれていたら、即死級の攻撃。
それをルーファはどうにか相殺する。
だが、それで終わりではない。
相手の剣を殺し切ったことを即座に判断したルーファはロングソードから両手を離す。そして、腰に下げたナイフを左手で抜き放ち――瞬時に右手に持ちかえながら円を描くように斬った。
それはあたかも、東方の島国の剣術である『居合抜き』のようであった。刀ほどの威力はないが、ナイフのほうが速い――。
「ぐがぁあああああっ!」
ルーファの回転斬りはトカゲ騎士の顔面に大きな傷をつけていた。
思わぬ反撃を受けたトカゲ騎士は激痛に絶叫し、青い血しぶきが舞う。
だが、トカゲ騎士もただでは終わらない。剣を捨てながら体を回転させて、勢いをつけた尻尾でルーファの側頭部を強かに叩いた。
「ぐぬぅっ!?」
強烈なカウンターにルーファの体は思いっきり吹っ飛ばされる。トカゲ騎士が尻尾も武器にすることを知ってはいたが、貧弱な人間の体ではすぐに防御に移行できなかった。
ノーガードで痛恨の一撃をくらったルーファは壁に激突。さらなるダメージを受けながら、地面に叩きつけられた。
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