第20話「レベル99VSレベル99の鍛錬」

★★★


「……リュータ……水晶見ないの?」


 魔王の間に入ってきたミカゲが、水晶を手に首を傾げる。

 リュータは魔王の剣を手にして、素振りをしていた。


「ああ、さすがにあの神の野郎の力を見せられたら、じっとしてられないだろ? リア充勇者の冒険見てイライラしててもしかたねーしな」


 戦闘狂の勇者にとって敗北という言葉ほど嫌いなものはない。そして、リア充ほど忌々しい存在もない。


「にしても、魔王ってのも厄介だよなぁ。勇者時代はいくらでも湧いてくる魔物を倒せば勝手にレベルも上がってったが、ここじゃレベリングもできねぇ。まさか魔王が魔族や魔物を相手にレベリングするのもなぁ……」

「……レベル99っていうことは、カンストしてるんじゃないの……?」


 カンストとはカウンターストップの略。その数字までいくと、もう上がらないという状態のことだ。


 勇者も魔王も通常レベル99までいったら、それ以上は経験値を得てもレベルが上がることはない。


「ま、そうかもしれないけどさ、でも、じっとしてるのも暇だろ? せっかく力があるのに使えないなんて、マジで拷問みたいなもんだな。魔王ってのもつれぇわ」

「ん……わたしたちが冒険していたときは、ほとんど毎日バトルをしていた……でも、魔族は本当に暇……たまに山に向かって爆滅魔法をぶっ放すぐらいしか楽しみがない……」


「あー、俺も山とか海に向かって思いっきり魔王の剣振るってみようかな……この剣、振るうだけでものすげー衝撃波でるんだよ。これずっと使ってたら魔王の間がボロボロになりそうだわ」


「ん……レベルがもし上がらなくても、熟練度は上がるはず。……わたしたちは、この体にまだ慣れていないし……以前ぐらいの熟練度になれば、あるいは神にもダメージを与えられるかも……」


「ああ、そうだな! せっかくだから魔王の力を最大限発揮してみたいしな! よっし、ちょっと山や海に行って、思いっきりいってフルパワーを使ってみようぜ!」

「ん……わたしも魔王の側近の黒魔法を最大限使いこなしてみせる……」


 リュータとミカゲは魔王城にある転移魔方陣(ミカゲが部下からその存在を聞き出した)を使って山へ向かった。


 この転移魔方陣を使えば、自分の魔力を消費することなく、いつでもどこでも好きな場所に行けるのだ。たとえば魔王城に四天王が集まるときなんかも、この転移魔方陣からやってくる。



 ともかくも、リュータとミカゲは未開の山にやってきた。


「おお、すっげぇでけぇ山だな! こりゃ、テンション上がるわ!」

「ん……山に向かって魔法を使うぶんなら、人間に迷惑がかからない……レベルは上がらないかもしれないけど……でも、練習しているうちに、なんとなく最上級黒魔法の発動が早くなってる気がした……」


「やっぱり強くなるためには修行しねぇとな。せっかくこんな最初からチート並の初期値なんだから、魔王もスキルを上げればもっと強くなれたんじゃねぇか?」

「ん……わたしたちが戦ってきた魔族や魔王って……せっかく力があるのに、戦い方が拙いというか……小細工をしないで真正面から戦ってきたり……変にワンパターンだから、やりやすかった……」


 たとえば通常攻撃を二回したあとに全体攻撃をする――みたいなパターンを繰り返すので、全体攻撃前に通常攻撃をくらった仲間を回復させたりすることができた。


 魔族や魔王は戦闘スタイルにこだわりが強く、イレギュラーな戦いはしない。だから、パターンをつかめば、攻略はしやすい面があるのだ。


「だから、俺たちが冒険者流の戦い方をすれば、魔王だって、もっともっと強くなれるはずだよな!」

「ん……いわば、わたしたちが戦っていた魔王も魔族も……熟練度はみんな1みたいなものだった……これをマックス値まで上げれば……最強の魔王や最強の魔王の側近になれる、と思う……」


「ああ、せっかくだから、最強の魔王と最強の魔王の側近になろうぜ!」

「んっ……なんだか、みなぎってきた……」


 根っからのバトル狂の元勇者と元黒魔法使いの心に火がついた。


「……ね、リュータ……どうせなら、わたしと戦ってみる? ほかの魔族じゃ相手にならないだろうけど……わたしとリュータなら、魔法に限れば、それも可能……」

「へへ、そうだな。冒険者時代も、たまにやってたよな」


 ミカゲが黒魔法使いなのに妙に俊敏性があって前衛が務まったのはルーファとの鍛錬によるものだった。


「確か、魔王や魔王の側近って自動でヒットポイント回復してたよな?」

「ん……白魔法で回復しているわけじゃなくて、闇のオーラによって回復しているみたいだった……」


 ふたりの体には闇のオーラが常にまとわりついている。

 強さに応じて湧く量が違うのか、魔王が濛々と湧き出てるのに比べて、ミカゲはそれほどでもない。


「ま、魔王なんだし、ちょっとやそっとはダメージ受けても大丈夫だろ。よし、ミカゲ、俺に向かって爆滅魔法撃っていいぞ?」


 リュータは山を背にして、両手を大きく広げる。

 魔王の体は、勇者時代よりも大きくて背が高いので視界が広く感じられた。


 こういう体の大きさや視界の違いにも慣れていけば、もっともっと力を引き出すことができるはずだ。


「ん……それじゃ、やってみる……」


 ミカゲは集中して魔力を高めていく。


「よし、いつでもこい!」


 そして、リュータは剣を抜刀、構えて防御態勢をとる。

 勇者時代と同じ、剣で魔法を打ち消す構えだ。


 剣を前面に構え、魔法との衝突にあわせて自分の魔力を思いっきりぶつける。

 最強レベルの剣と魔法の使い手である勇者でしかできない芸当だ。


 なお、基本的に破壊系黒魔法を相手に使われた場合は、戦士は耐え、格闘家は避け、白魔法使いは防御魔法を使い、黒魔法使いは黒魔法をぶつけて相殺するのが定石だ。


「……それじゃ、いくよ……? ……究極黒魔ヘル・エクスプロージョン……」


 ぼそりと元気なくつぶやく声とは正反対に――ミカゲの両手からものすごい勢いで闇の魔力が迸る。


「よーし、きたぁっ!」


 ミカゲが全力で放った爆滅魔法を、リュータは魔王の剣で思いっきり迎え撃つ。

 少しでもタイミングを間違えば大打撃になる究極爆滅魔法。


 勇者ですらもろにくらったら瀕死の重傷になりかねない魔法を、リュータはタイミングをあわせて自分の魔力を発動し――「ぶつけた」。 


 ――ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん……!


 天地を揺るがす衝撃音とともに、リュータの展開したバリアとミカゲの放った爆滅魔法が「ぶつかる」。


 完全に相殺しきったことで、ふたりにはノーダメージ。

 しかし――。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! 


 強烈すぎるエネルギーの衝突によって大地が地震のように揺れ続ける。


「はは、こりゃあ、すげぇな! なんだ、魔王の側近の魔法もえげつねぇな、俺らが戦ったときって、側近のやつこんな魔法使ってたか?」

「……おそらく、魔王城を壊さないために力をセーブしていたんだと思う……」


「あー、そういう配慮してたのか。魔族もつまんねぇこと気にするな。、つうか、やっぱり魔王もつえぇわ! 魔力量がハンパねぇ! これならいくらでも魔法撃たれても相殺できそうだぜ?」


 やはり、これまでの魔王は戦い方が下手だったのだ。

 レベル上げもできず、経験値も稼げず、いわば熟練度が1だったのだ。


 なら、戦いのエキスパートである勇者が魔王の力を最大限に引き出したら――きっとレベル99の壁を越えられる。仮にレベルは99のままでも、熟練度を99にすることはできる。


「よーし、ミカゲ! どんどん撃ってこい! ぶっ倒れるまで鍛錬するぞ!」

「ん……魔力が0になるまで魔法をぶっ放せるなんて、最高……!」


 そのままリュータとミカゲは最大魔力での究極魔法の行使と究極魔法防御を繰り返し続けたのだった。

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