episode 1 会敵
『────長剣レーヴァテインを分解、能力として再構成。冥界のロングコートを分解、能力として再構成。称号"深淵への初到達者"を魔力に変換。インベントリ内の全アイテムを能力の強化に使用。能力の強化に成功。』
暗い、深い場所でその声だけが頭の中にこだまする。
俺は、どこにいる?あれからどれだけ経った?そもそも何が起こった。
どこからか聞こえてくる音が耳をくすぐる。
鳥の鳴き声が聞こえる。
木々のざわめきが聞こえる。
背中に触れる土の感触。
次第に戻っていく体の感覚。暗い沼の底から引き揚げられるような感覚とともに俺の意識は覚醒した。
目を開けて最初に目に映ったのは緑の木々とその間に覗く青空。
迷いの森?いや、あそこは年中霧がかかっている。
待て、俺はどうしてこんなところにいるんだ。俺はさっきまで闘技場に…
再び目を瞑り、息を整える。
現状報告!
任せろ!俺の名前は月城天、16歳。
VRMMO【Unknown】で最強の称号"武帝"をずっと守ってきたちょっとした有名人だ。ある日、ウィンストンなる人物から勝負を仕掛けられた俺は勝負を受け、ウィンストンを圧勝──いや、ほぼ圧勝だな、ほぼ。
そうだ、あの後どうなった⁉︎
頭の中で情報の整理がつかず、再び目を開ける。
「──え?」
そこで、こちらを見下ろす赤い双眸と目があった。
「……っ」
人間の本能か、あるいはUnknownで培った経験か、俺は即座に地面を転がり距離を取った。
ゴーレム?そうとしか形容しようがない生物が目の前にいた。全身が金属に覆われ、3メートルを遥かに超える巨体を持つ。
Unknownではこのような種族を総じてゴーレムを呼ぶ。
「あの〜、どうかしましたか?」
なんで気の利いた口上が出てこないのか……
そんな俺の不満を無視して相手が口を開く。
「貴様、人間か?」
「多分、そうですけど?」
「では何故、魔素の濃度が濃いこの森で平気でいられるのだ?」
魔素?なんだそれ?そんな俺の疑問をよそに相手は続ける。
「見たところ上位の冒険者でもないし、いや、まさか──」
ブツブツと呟き、ふと顔を上げて俺を見る。
「──貴様、"アンノウン"という言葉を知っているか?」
「…!?」
今、Unknownって言ったのか?しかも、知っているか?ならば、ここはUnknown?
「知っています。貴方の知っているUnknownと俺の知っているUnknownが同じかは存じませんが」
とたん、ゴーレムから殺気が膨れ上がった。
しまった!遅れて俺は自分が虎の尾を踏んだことに気がつく。
「やはり『渡り』か、思わぬところで
「ちょっと状況が理解できないんですが」
「渡りは自分の能力に慣れれば厄介だが、コッチに来てすぐなら対処は容易い」
「説明はしてくれないんですね」
さり気なく腰を確認し、愛剣レーヴァテインがそこに無いことを視認する。
「俺たちにとって渡りはご馳走だからな。では、尋常に」
そう言って腰を落とすゴーレム。
素手相手に全身武器の種族が何が尋常にだ!
内心そう毒付きながらも、ゆっくりと重心を落とす。
「─ふぅ」
静かに息を吐く。
相手の初動を見逃すな。初めてやったVRMMOで、まだ初心者だった頃に教わった対人戦の心得。
相手が後ろに引いた右足が踏み締める地面がヒビ割れる。力を入れたのだろう。金属の体は筋肉の動きが見えない──筋肉などないのかもしれないが。
ゴーレムが爆発的な速度で飛び出す。
あんなのと正面衝突なんて冗談じゃない!
「《
ゴーレムの足元が泥の沼となり、わずかに突進の速度が鈍る。
よっしぃぃ!Unknownの魔法は使える!なら、
「《
俺の手から放たれた電撃がゴーレムにまとわりつく。が、
「その程度の魔法で我を倒せるとでも?」
ゴーレムは電撃を完全に無視しながら進んでくる。
雷属性攻撃に対する絶対耐性?いや、そう考えるのはまだ早いか、スキルやアイテムを使った可能性もある。そもそも金属の体を電気が伝って地面に流れた可能性だって、
俺がそこまで観察を済ました頃にはゴーレムは目前だ。
俺目掛けて振り下ろされた拳が大量の砂煙を起こす。
「跡形もないか」
「《
放射状にヒビが広がった地面を見てのそう呟く節穴目玉のゴーレムの頭に魔法を叩き込む。
ガコン、と鈍い音を立て岩が砕け散り、こちらを振り向く。
「完全に捉えたはずだが……?何かカラクリが」
やっぱり生半可な攻撃は通らないか、しかしまぁそろそろ仕掛けるか。そう覚悟を決めて《
今までの感じから、多分だが周りに人はいない。ならば、
「《
上空で黒雲が渦巻き、稲妻が走りはじめる。
俺が叫んでからきっかり10秒後、無数の雷が地面に落ちる。
ゴーレムだけを狙ったのではなく、周囲の地形もろとも破壊し尽くす大範囲殲滅魔法、それが《
勿論、相手が複数でもないのに使うことにあまりメリットはない。
これは
《不可視化》は相手に姿が見られている状態での発動はできない。その点、範囲魔法は激しいエフェクトで姿を隠すのに便利なのだ。
「む?」
俺の姿を見失ったゴーレムの背後に移動し、背中に軽く触れる。
本来のUnknownなら相手の体内に魔法を発現させる事はできないが、今は不思議とできそうな気がする。
「《
ゴーレムにダメージが通りやすい炎属性の最上位単体魔法、Unknownでも上位の火力を叩き出す魔法がゴーレムの体内で暴れまわり、装甲を溶かしていった。
大きな世界の樹の下で! 三華月 @siroikogitune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大きな世界の樹の下で!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます