episode 0 狂い始めた世界
『まずはチャレンジャーの入場ダァァ!一晩にして個人ランキング7位に成り上がった男!事前情報がほとんどないコイツは果たして勇者かそれとも悪魔の使いかぁぁ?』
真っ暗になった闘技場に、一筋の光がさす。
全ての観客の視線は光がさす方、即ち闘技場の入り口に向けられた。
「…おい、ありゃあ何の種族だ」
VIPエリアの一角で、ジャックが思わずといった様子で呟く。
「少なくとも
ジャックの一段前の席に座るプレイヤーも興味深そうにそれを見詰める。
闘技場の入り口に立っていたのは…
「なんだ、あれは」
闘技場の反対側の入り口から空中に浮かぶスクリーンに映し出された相手の姿を見たアマツは、奇しくもジャックと同じ感想を抱いていた。
そこに映っていたのは、身長2.5メートルほどのアバターであった。その身長を超えて特徴的なのは身長とほぼ変わらない長さの腕だ。
俺もかなり色々な種族のプレイヤーと会ったりしたつもりだが…アレは…?
「分かった!装備品だ、装備品!」
「いやいや、未発見の種族だろ!」
観客席でも様々な考察が飛び交い、それが波のように伝播する。
そんな観客席を他所に、アナウンスが響き渡る。
『続いて我らが
アナウンスと共に闘技場内に新たな建造物が出現する。対策防止のため、闘技場内の構造は毎試合作り変えられるシステムだ。
遺跡か何かか?アマツは新たに出現したステージを前に、主な遮蔽物、高台、死角を確認し、腰に吊るした長剣を確認する。
『では防衛戦始めェェ!!』
「
開始早々、アマツはステージの中心にある高台に転移した。が、ここで得体の知れない違和感が襲う。
何かがおかしい。どういう事だ?攻撃がない、いや一歩たりとも動いてない!
Unknownにおいて高所を取るのは何よりも大事だ。自身より高い位置からの遠距離魔法は対処するのが困難であり、逆に魔法や狙撃を当てるのは不可能に近いからだ。
観客席にも困惑の声が広がる。
「…ファイヤーアロー」
一瞬の逡巡の後、速度特化の炎魔法を放つ。
炎で出来た矢は狙い通り相手の右肩に向かって飛び、直撃するかに見えた、が
相手の姿がブレた。
その結果ファイヤーアローが地面に炸裂し、土煙が上がる。
直後、土煙の中から1本のピックが飛び出した。
「…っ⁉︎」
咄嗟に身をそらすが、頬にかすりダメージが入る。
早えぇ!
魔法を発動した直後の硬直時間を狙われても、反撃の対処出来る距離を保っていた筈だ。しかしピックは硬直時間中の俺にダメージを与えた。スキルか、装備品の効果かどちらにしろ見たことのない能力だ。
土煙が晴れる。会場からどよめきが上がった。
「おい、無傷だぞ!やるなチャレンジャー!避けたのか!」
観客の1人が声を上げる。
「Unknownでトップクラスの高レベルプレイヤーの速度特化魔法だぞ?アホじゃねぇのアイツ」
VIPエリアの一角でジャックが毒付く。勿論相手に聞こえない声量でだが、
「いくら上位プレイヤーだからって今の暴言はどうかと思います」
パソコンを持った少女が冷静に注意するが、その内心は焦りまくりである。情報収集を得意とする彼女ですら今の現象を理解できなかったのだ。
他の上位プレイヤーですら動揺が隠せない中、当事者であるアマツの行動は早かった。
「
相手の真上に転移する。落下時間を利用し魔法を発動、続いて長剣を引き抜く。
遠距離がダメなら近距離、この切り替えの速さがアマツの強みである。
上段から重力に任せて振り下ろす。
相手の頭上に名前が表示される。
【winston】
ウィンストンか、そんな一瞬の思考を置き去りに長剣は相手に肉薄する。
切っ先がかすり、ダメージエフェクトが散る。
ぬるっ、とどこか人間離れした動きで距離を取るウィンストン。
刹那、ウィンストンの長い腕が伸びた。
「‥⁉︎」
驚きつつの長剣で迎撃。いつの間にか握られていたウィンストンの短剣とアマツの長剣が接触し火花を散らす。
長い腕から四方八方、縦横無尽に繰り出される攻撃を捌きながらアマツは相手を観察する。
腕は今のところ5メートル程しか伸びていない、コレが最大値かまだ伸びるのか。
そんな事に意識がそれ、ウィンストンがフェイントのつもりで放ったであろう攻撃に全力で対抗し、大きく体勢が崩れる。
「…もらったぞ」
ウィンストンが初めて声を上げる。
それこそがアマツの狙いと知らずに、
長い腕が握った短剣がアマツを貫こうとした瞬間、アマツの体が妖しく輝いた。
視界を奪われたウィンストンは後ろに大きく退避する。
「へぇ」
アマツの口から感嘆の声が上がる。
長い腕を自身の周りに張り巡らせ、防御体勢を取ったのだ。まさに攻守を合わせ持った万能の腕。
だが、アマツはさらに上をいく。
「
数少ない防御貫通の魔法。
その威力は凄まじく、ウィンストンから決して無視できない量のダメージエフェクトが発生する。
「成る程、コレは骨が折れそうだ」
ウィンストンが再び口を開く。
「だが、コッチにも事情というものがあってな、そろそろ終わりにするか」
続くウィンストンの言葉に謎の違和感を覚える。
直後、激震。下から突き上げるような揺れが闘技場を襲い、遺跡の一部が崩れる。
おいおい、ステージは破壊不能のオブジェクトだろ?何で崩れてんだ?脳内の思考とは関係なしに本能が警鐘を鳴らす。
「
即座に闘技場に張ってある結界の上部ギリギリに退避する。が、
「
転移した先では非情な声と共にウィンストンが放った魔法が迫っていた。
よってアマツは切り札を切る。
スキル【パンドラの箱】、自身に対する魔法を50%の確率で威力を倍にして返し、50%の確率で倍にして受けるという、諸刃の剣だ。
勿論、他のプレイヤーにとっては
アマツがスキルを発動した瞬間、称号"深淵への初到達者"の補正効果が発動する。
その効果はUnknownないのあらゆる確率を+100%、つまり倍にするというものだった。
故にアマツのパンドラの箱成功率は100%、あまり使いすぎると運営から修正が入るため普段は隠している奥の手だ。
スキルが発動した結果、ウィンストンが放った魔法-恐らく闇属性の魔法-はウィンストン自身に跳ね返り……ウィンストンは爆発飛散した。
『決まったぁぁ!勝者、amatsu!!』
アナウンスが流れ、会場に歓声が爆発する。
しかしその一方で、アマツを含めた一部の上位プレイヤーは今起きた異常現象の正体を突き止めようとしていた。
そして、その異常現象が再び起こる。
闘技場を再び襲った地震はステージだけでなく、闘技場そのものを破壊し始める。
『只今、サーバーに深刻な問題が発生しました。ログイン中のプレイヤーの皆様は、速やかにログア#gfyt#_jA#ep,』
即座に流れ出したアナウンスすらも途中で意味をなさなくなる。
アマツはウィンドウを呼び出しログアウトしようとするが、
は?なんだ体が……重い
それが叶うことはなく、意識は深い闇に飲み込まれていった。
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