大きな世界の樹の下で!

三華月

episode 0 Unknown

『さあ、始まったぁぁ!!武帝バトルロードVSバーサスチャレンジャーの何でもありバーリトゥードの格闘戦!ルールは単純!どちらかが倒れるまで戦い続けるだけ!今回のチャレンジャーはamatsuに土をつけることができるのかぁ?

尚、両プレイヤーへの賭けベットは試合開始10分前に終了するので、ご注意を!では、ここで観戦中の注意事項について説明したします!まず、……』

 月城天つきしろあまつは遠くから聞こえて来るスタジアムの実況と、それに続く観客の大歓声を聞きため息をつく。


「何度目だろうな、」


 そんな独り言が天の操作するアバター、amatsuの口からこぼれる。





 大人気のVRMMO[Unknown]は発売開始から僅か3年で5億人以上のプレイヤーが利用するようになった化け物タイトルだ。

 その男性プレイヤーの個人ランキング1位に君臨した者に与えられる称号“武帝バトルロード“、現在の武帝はamatsu、ゲーム登録から無敗で男性個人ランキング1位に駆け上がった化け物中の化け物だ。

 が、その実の中身はごく普通の高校生である。



 数時間前

「あーまつ!今日の格闘戦だろ?頑張れよ!」

「言われなくとも、見に来るのか?」

「当たり前!有り金賭けるから勝ってくれよ?」

「そんな事してたらロクな大人にならないぞ。じゃあな!」


 クラスメイトからの激励を受け、教室を出た天は、小走り気味で正門へ向かう。


「待ってよ!」


 正門を出てすぐ天を追いかけて来る影があった。


「おぉ、一ノ瀬!」


 隣のクラスで幼馴染みの一ノ瀬いちのせひじりである。余談だが、髪を短く切り、文武両道な一ノ瀬だが、その彼女もUnknownで女性個人ランキング3位につける生粋のゲーマーである。


「今回も見に行くから頑張りなよ!今回の相手、相当怪しいよ」

「分かってる、最善を尽くすさ」

「油断しないでよ?じゃあね」

「おう、また後だな」


 一ノ瀬の家の前に着き、2人は別れる。と言っても天の家は隣だが。

 家の鍵を開け、すぐさま2階の自室に向かった天は制服から私服に手早く着替え、ベット脇に置いていたヘルメットをかぶり、ベットに体を預ける。

 ヘルメットが起動し、システムが天の意識を現実から引き離して行った。





 そして現在、

主武器メインウエポンを長剣【レーヴァテイン】に設定、主防具メインアーマーを【冥府のロングコート】に設定、、称号は“深淵への初到達者“、設定を終了」


 Unknown内の闘技場の待合室で、アマツは次々と設定を終了させていっていた。


『試合開始10分前です。待機エリアへの転送を開始します。』


 脳内に直接響くようなアナウンスが流れ、転送が始まる。転送は一瞬で終わり闘技場につながるトンネルの中に転送された。


『さあ!会場のボルテージも上がってきたところで試合10分前となりました!賭けベットの方を締め切らせていただきます!さて、皆さんの予想は?-出ました!amatsuの1.2倍、チャレンジャー4.7倍!!これは凄まじい数字ダァ!やはり、amatsuの勝利は固いのか?それともチャレンジャーが下克上を果たすのカァ!試合開始は9分後ダァ』


 闘技場からの実況と共に凄まじい歓声が聞こえて来る。この武帝防衛戦のランクマッチも今回で6回目になるが、その中でも1番の盛り上がりだろう。

 なんせ今回の相手は……




【闘技場、VIPエリア】

「いやー、凄い人だなぁ!前回の何倍だ?」


 Unknownの男女個人ランキングのそれぞれ上位10名だけが入ることの許される特等席で、青いマントをまとった金髪の男が呟く。


「おい、おい!そりゃあ前回の俺より、今回のチャレンジャーの方が人気あるって言いたいのか?」


 金髪の一段上に座っていた緑の髪の男が金髪の頭を掴む。


「人気はともかく、注目度という点では-。なんせ今回は相手の情報がありませんから」


 金髪の隣に座っていた、パソコンを抱えた少女が反応する。


「まさか1日でランキング圏外から7位にまで上げて来るとはね」


 金髪の反対側に座っていた黒髪の女性も反応する。


「やはり、得点の総取りですかね」


 パソコンを抱えた少女が再び口を開く。

 現在のUnknownの個人ランキングのシステムとしては、PvPやモンスター討伐でポイントを稼ぎ、ポイントに応じてランキングも決まる。だが例外として50位以内のプレイヤーが1〜9位のプレイヤーに挑戦し得点を総取りできるというシステムがある。勿論、挑戦された側は挑戦を拒否することもできるのでよほどの事が無い限り下克上は起こり得ない。


「あんなメリットのないシステムを誰が使うんだよ!え?」


 緑の髪の男が威圧するように声を上げる。


「でも、7位と連絡がつかないのは事実を鑑みると」


 少女は意に介さずに続ける。


「負けて引きこもってるってか?情けねぇ」

「あくまでも可能性の話ですよ、ジャックさん」


 呆れたように答える少女は、自らがジャックと呼んだプレイヤーを睨み付ける。

 明らかに一触即発の空気だったが、幸いにもそこでストップがかかった。


「静粛に。仕合が始まるでござるよ」


 今まで沈黙を守っていたプレイヤーが静かに注意したのだ。


「…チッ」


 ジャックは小さく舌打ちをするが、それ以上少女に突っかかることはなかった。

 会場の照明が一気に落ち、観客が自然と静まり返る。

 そして、Unknown史上最高の決戦が始まった。

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