第1話 新生魔王ロベリア

 自分が生きてることに混乱している『月島葵』は周辺を見渡した。

 そこは本当に自分が生きていた世界と違うのが一目瞭然で、見たことも無いような植物が点在している。


「これって俗に言う異世界転生?」


 混乱しててもそれくらいは予想がついた。

 あの状況で助からないのは明白だから、死んでない方が絶対におかしいのだ。


「こっちなら何か楽しいことあるかな」


 そう思って新世界で一歩を踏み出すと、いきなり足元に違和感があって立ち止まった。

 見てみるとそこには一冊の説明書と異世界の文字で書かれた薄っぺらい本が落ちていた。

 それを拾って開いてみると『人生は捨てたものにあらず。無駄にするくらいならもう一度試してみろ』と最初のページに書かれていた。


「誰だか知らないけどいい度胸してるね。一度死んでるから試してやるけどさ」


 次のページを開けてみると、何かの魔法がかかっていたのか分からないが説明書の内容が頭にスッと入ってきた。

 葵が感じたイメージとしては、魔法で浮かび上がった文字が直接頭に吸収される感じだ。

 それが終わると説明書は消滅した。


「なるほど、この世界はなかなかに素晴らしい世界じゃん!試しにステータスを見てみよう」


 そう言って説明書から得た知識の魔法を使うと目の前にステータス画面が表示された。



 名前:無し

 種族:鬼

 役割:魔王

 支配地域:大陸最南端

 住処:魔王のダンジョン(レベル1)

 能力:万死の時

 魔法:基本、操作系

 配下:無し



 このステータスを見て葵は変更できる部分を理解した。


「最高に楽しそうなステータスだけど名前がないのか。まぁ、そうだよね。親なんてこの世界には居ないみたいだし」


 そう言いつつ新しい名前を入力した。

 それは『ロベリア・メルトスター』だ。


 その名前が決まった瞬間、この世界に存在する他の11人の魔王と司祭などの特別な人間達が新魔王の誕生を感じ取った。

 これで葵は正式に死んでロベリアという魔王としてこの世界に受け入れられた。



 新魔王の誕生がこの世界にどれだけの影響をもたらすかなんてロベリアは知らない。

 でも、人間が敵だということは分かる。

 耳をすますと聞こえてくる。近づいてくる人間を魔王は排除する権利がある。


「気をつけろ!そろそろ新しいダンジョンに着く!」


 その声が聞こえた数秒後、ターゲットの人間が現れた。

 ロベリアは生まれたてだからもう少し色々と整理したかったが、今は魔王として初仕事をする。

 そのためにやってくる人間達を堂々と待った。


 人間達は足音からして4人のパーティーだ。

 情報取得が早くてもうこのダンジョンに手を出そうしている。

 主人が生まれたてで外にいると知らないで。


「おい!あそこがダンジョンの入り口だ!」


 そう言って人間達は見つけたダンジョンの入り口に走って行った。

 そこに魔王が姿を見せた。

 今ロベリアは入り口から少し離れてたことに気づいて内心焦っている。


「なっ!モンスターか!」


 ロベリアの登場に焦って剣士は剣を抜いて構えた。

 その後ろにいた魔道士の女性が魔法をかけた目で相手の正体を見抜いてうろたえた。


「なんで…外に魔王がいるのよ!」


 その言葉に仲間達も驚いた。

 目の前にいる風格漂う化け物が魔王だなんて普通は分からないらしい。

 これはロベリアのいい経験になった。


 こんなロベリアを恐れる人間達に自分を大きく見せるように名乗ることにした。


「私は新生魔王ロベリアだ。見た目は子供だが舐めたらこうなるぞ」


 そう言うと鬼の力を活かすためにめいいっぱい力を込めて地面を殴った。

 すると、地面がへこんで少し割れた。

 それは土煙でなかなか人間達にはよく見えなかったが、ロベリアの強さはそれで完璧に伝わった。


「さて、まだ弱いが相手になるぞ」


 土煙の隙間から見せるその顔は生き生きとしてやる気に満ちている。

 それに対して人間達は力があり過ぎる魔王にびびって腰を抜かしたりしてしまっている。


「おや、この程度にビビったか?」


 情けない連中にロベリアは上から目線でそう言った。

 その言葉に剣士、魔道士、狩人は何も言えなかった。

 でも、暗殺者らしき女はとても幸せそうな顔をしている。


「さて、私は忙しいんだ。ここに2度と近づかないと約束して帰れ」


 高圧的にそう言うと剣士達は誓った。


 でも、暗殺者の女だけはメンバーを裏切って残る覚悟をした。


「みんな、私はここに残るよ。私の性格を知ってるみんなならどうすべきか分かるでしょ」


 人間達は魔王の言う通りに帰ろうとしていたが、暗殺者がそう言うので少しだけ振り返って決めた。

 3人は暗殺者を残して手を振って帰って行った。


「お前は帰らないのか」


「えぇ、魔王の手下にしていただきたいと思ったので」


「えっ?」


 魔王はなぜか残った暗殺者に話しかけるといきなりそう言われた。

「えっ?」と言いたくなるほどに意味不明だが、この世界の詳しい情報を持っている人を味方に出来るまたとないチャンスかも知れない。

 そう考えるとこれは見逃せない。


「それは本気で言ってるの?」


「はい!あれだけの素晴らしい破壊力!絶対に人間と戦えば血の海が見える。それを考えるだけで興奮します!」


「うわっ」


 今のセリフにはガチで引いた。

 これのせいで最初の味方にするか再検討したくなった。

 でも、魔王について来るのなんてこんなもんだろうから仕方なく受け入れた。


「うーん、それが本気なら味方にしてやるよ」


「ありがとうございます!」


「で、生まれたてで知らないんだけど契約か何か必要なの?」


「魔王から血を貰えば配下になれます。ささっ!あなた様の血を私に!」


 本当に変態的な暗殺者はキモいなと思いつつ仕方なく指を少し噛みちぎって血を流した。

 それを見た暗殺者はひざまずいて口を開けて待機した。

 ロベリアは近づいてその口に数滴の血を落としてやった。

 それを暗殺者が飲み込むと魂に主人が魔王ロベリアであると刻まれた。

 ついでに暗殺者は主人の手を取ると口づけをした。

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転生したら世界を切り分ける魔王の1人になりました 凪鬼琴鳴 @kuronomakoto3214

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