その6
僕はひとまずベッドの対面に向けて杖を振る。
「ヒカリウム!」
ぱっひゅーっ! っと杖から光が飛び出して天井前で留まり、すぐさま光は辺りを照らし始めた。
光に照らされて露わになる艶めかしいライラの姿。
姿は艶めかしいが、その様子は落ち着いていられるものでは無かった。
僕は若干目のやり場を気にしながら、ライラを揺さぶり起こす。
「ライラ! ライラ! どうしたの!?」
「――っっや」
ばっとライラの目が開かれる。
その顔に滲むのはもやは冷や汗と呼ぶものだろう。顔だけではなく、着ている服までもがひどく濡れている。
僕はそのままライラの顔を見つめている。ライラが荒く呼吸をしている。
「――はぁ、はぁ……んっ」
「しっかりして――っと」
僕はたたっと台所からコップを手にとって、コップに向けてコツンと当たりそうなくらいに杖を振る。
「ウルン」
僕が唱えると、空のコップにはたちまち綺麗な水が湧き上がってきた。
それを、多少落ち着いたであろうライラのもとへと持っていく。
「ライラ、起きられる? 水飲んで」
体を起こそうとするライラの背中を支えてみる。ひやりとした感触だ。背中までひどい汗をかいたのだろう。
ライラは僕から水を受け取って、それをコクコクと飲んでいった。少しその動作がライラを思わせない可愛らしい動作だった。
「ちょっと……何か考えてない?」
水を飲み終えたライラが不審な目を向けてきた。
なにも。
「――ふぅ」
だいぶ落ち着いたのだろう、小さく息を吐き出した。
「うなされてたし、凄い苦しそうにしてたよ。何か嫌な夢でも見た? ――と、聞く前に、ライラ着替えたほうがいいかも。汗凄いかいてたし」
と、言うのを聞いたライラが、バッと自分の寝ていた場所や服を確認し始めた。
「あ……あ……、ちょっと……。ごめん、あの」
ちょっと気まずそうな顔をした。し、恥ずかしそうにもしていた。やはり女の子なのか、僕は気を利かせたほうがいいか。
「シャワー、浴びてきなよ。後やっておくから。体冷えるから、ね?」
「いや、いい、……自分でするからっ」
「……心配しなくても嗅いだりしなから」
「いや、あんたその言い訳が出ること自体がおかしいんだって、変態っ」
そんな言わなくてもいいじゃん。
「いいから、そーら、立って」
と、僕はライラの腕を引いて立たせる。「わっ」とライラが驚いていた。
そしておなじみの杖を布団に向けて、こう唱えた。
1、モー・ワイター
2、コウソッカン
3、ヌクーイ
もうわかるよね?
「コウソッカン!」
すると杖の先に2つの光が円を描くように杖を囲み、そのままライラの寝ていた布団のライラが濡らした場所に飛んでいった。
ライラが濡らした場所から、光の逆カーテンが現れて、ライラが濡らした布団を包み込んだ。
「ちょっとあんた、あたしが濡らしたって……その! 何回言うつもり!?」
「別に僕がわざと言ってるんじゃないって」
「他に誰が言ってんのよ」
僕とライラが言い合いをしているうちに、布団は見事に乾いていた。
「ほら」
「……なんか嫌な顔するわね」
「まぁ、ほらそんなこといいから、とりあえず着替えるなりなんなりしておいでって」
しぶしぶ、という顔をしながら、ライラは浴室へと向かっていった。
静かにしていると、ライラの服の擦れが聞こえる。いや、何考えてるんだ。
寝ている途中だったから、夜も深い。外はただ静かに時を送っていた。
僕はちょっと外の風に当たろうと扉に足を運んだ。
その途中、ライラが寝ていたベッドからとても甘く良い香りがしたことは、誰にも言わないでおこうか。おっと気持ち悪いね。
外は少しまだ少しの寒さを残している。まだこれから暖かくなっていくんだからしょうがないよね。
1年前は……そういえば、ルナが突然お花見しよう! とかいい出したっけ。いやまだ早いよ、とかいいながらルナに連れて行かれると、そこは何故かまだ寒いのに綺麗な花が咲き誇っていたっけ。寒さの終わりに咲くという珍しい花だそうだ。
......そういえばそれより前って、僕は何をしていたんだろう。
相変わらず僕は何も思い出せないし、そもそも僕はどこにいたのだろうか。――いや、それもおかしいかもしれない。
色々、昔のことを考えると頭が痛くなるから、あまり考えないようにしている。
僕には、あの時からの思い出が、ルナとの思い出があるから、別にそれでいいんだけれど。
……いいんだと思うんだけど。
僕の頬をまだ冷たい風がなでていった。
――あたしは、夢を見ていた。
ヒカルに凄いうなされてたよって言われてたけど、見た夢はもうよく覚えてはない。――いや、まだほんの僅かだけど瞼の裏に残っているような気がするかな。
でも、その夢が何を意味してたのか、そもそもなんの夢だったのか、あたしにはわからなかった。
ここよりはだいぶ狭い部屋? で、ベッドがあった。でも、ヒカルのベッドみたいに寝心地が良さそうだとは思わなかった。
そのベッドには、誰か――誰だったんだろうか――眠ってた。
でもその人にはいろんな紐、みたいなのとか付いてた気がするし、口もおさえられてた気がする。
そういえば、あたしの他にも誰かいたような気がする。
何人いたかなんて覚えてはないけれど、ベッドを囲うようにみんながいた。
でも、あたしの知らない光景……だと思う。
でも、なんでだろう。
凄く怖かったんだと思う。
こうやって少しずつ夢を思い出そうとすると、少しずつ怖くなっていく。気がする。
……もう思い出すの、やめとこう。
するりと脱いだ服を足元にある入れ物に入れた。そこはくたびれたような服が他にも入っていた。
汗、凄いかいちゃった。汗かきでここにいるわけにはいかないし、シャワー浴びさせてもらおう。
……。
あたし、これ以上成長しないのかな……。
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