その5

 で、どうして君がここにいるのかな? ここは(一応)僕の家なんだけど?

 隣でもそもそ人のご飯を食べているのは、さっき別れたルナとさんざん戦って負けたライラさんじゃないですか?


「何よ」

「いや別に」

「変な目で見ないでよ変態」

「あのさ、勝手にやってきてそれはないんじゃない?」


 何故か僕の家に来ている。そして人のご飯を――


「あんたモテないでしょ?」


 ほんっとにこいつ、くちわっりーな。

 おっとそれは僕もだった。


「ねぇ、人にご飯のリクエストしておいてよくそれだけのこと言えるよね? もうちょっと感謝してくれてもいいんだよ?」

「嫌なら作らなきゃいいじゃん」

「別に、そこまで言ってないし」

「男のツンデレとか誰も求めて無いわよ?」


 何の話? ねぇ。


「ねぇ、それはいいんだけど、き「良くない」み家に帰らなくて大丈夫? てかお家どこなのさ」

 

 めっちゃ僕のセリフかぶってるし、やめてくれない? 読みにく――しゃべりにくいから。


「なに、あたしの家知ってどうすんの? ストーカーするつもり?」

「自意識過剰過ぎん? 別にそんなことしないよ」

「……知りたい?」

「……(ちょっとめんどくさくなって来たけどうんって言わないと話進まないからしょうがない)うん」

 

 ――――――――――


「マトメルト」


 自分の町で色んな人に魔法の戦いをふっかけてた。

 ありとあらゆる人倒した。

 周りにライラより強い人いなくなった。

 旅立った。

 ルナの力を見た。

 戦いをふっかけた。

 負けた。


 この魔法便利すぎる。

 てかおま、どこの戦闘狂だよ。

 最近口調がおかしくなってきた気がする。


「それ、お家の人とか知ってるの? ここに来てるのとか」

「ううん、知らない」


 ただの家出娘やぁ……。


「それ、心配されてるよ……。早く帰ってあげなよ」

「……イヤ」

「どうして?」

「だって……お父さんもお母さんも、あたしにもっとおしとやかにしろーとか、魔法以外も勉強しなさいとか、うるさいんだもん」


 ライラの容姿をみてもなんとなくわかるけど、実はいいところのお嬢さんな様子で、ライラは周りから色々としつけや勉強を強要されているようだった。

 たまりたまった鬱憤はついに爆発して、ライラは暴走してありとあらゆる人に戦いを挑むようになった。

 まぁ、いいとこのお嬢さんとか、結構堅苦しいんだろうなって、話を聞いているだけで心に滲んでくる。


「ねぇ。ちょっとだけここに置いてくれない?」


 え、それは……。


「いや、それはまずいんじゃぁないかなぁ……? 仮にも男と女なわけだし、この家仕切りするような空間無いよ?」


 一般的な1Kをイメージしてもらうとわかりやすいかも、とヒカルは付け加えます。

 それに、こんなのルナが見たらどう思うか……。※ルナには内緒でこんなことになってます。


「気にしないわよ」

「僕が気にするって」

「何、あたしで欲情するっていうの? ばっかじゃない?」

「くちわっりーぃ」


 そういえば身体つきは弱いけど――主張が無いってこと――この子何歳なんだろう?


「あのさ、まぁあたしこれでも16なのよ。何があってもいいって、覚悟できてるんだから」


 なんと同い年でしたか! どう見ても見えない。


「あんた燃やすわよ?」

「何も言ってないじゃん」

「顔が言ってんのよ変態」


 手が思わず杖を握りしめようとして、僕は地平線の彼方を頭に思い浮かべた。心を落ち着かせましょう。

 君を乗せたくなるね。――おっと失礼。


「とにかく、しばらくここにいさせてもらうわ」


 という感じに強引に居候されてしまう始末。


「……はぁ」


 なんかもうどっと疲れが出てくるよ……。

 いやね、ライラも凄く美少女で実はこの距離で話すの、顔に出ないけど緊張するところもあるんだよ。ルナは慣れたけど。

 一瞬、ちらりとライラがこちらを見ているのを僕は横目でとらえた。


「……ごめん」


 立場的に僕が言ってるように聞こえるでしょ? ライラなんだな。


「なんで謝るの?」

「無理やり……しちゃって」


 凄く誤解のある言葉だけど、僕まだ――いや別に無いけど何もしてないよ。

 

「うん、無理やり居座っちゃってねってことね。……まぁ、別に構わないよ。ライラがそうしたいって、理由があるんだから」

「……」


 僕はライラを振り向かず、お皿の片付けをしながら返事をする。

 その言葉の後は、ライラそからの言葉はなくなった。珍しく静かになったもんだと黙々と片付けをする。

 それから、ライラは一言も喋ることもなく夜を迎えてしまった。




 夜。

 さぁ、まぁ、うちには当然ベッドひとつしかないからね? 必然的に僕は床で寝るわけですよ。

 一緒に寝ればいい? できるかい。

 ライラは静かに寝ているようだった。

 ようだったというのは、もう部屋も真っ暗になってて、僕はベッドに背を向けて横になってるからだ。息を潜めればライラの寝息が聞こえてくるからきっとぐっすり寝てるのだろう。

 

 あれから特に会話とか(まぁもともと会話してくれなかったけど)なく、ライラはシャワーを浴びて僕の服をぶんどってベッドに入ってしまった。

 ていうか、今更ながらルナのとこに行けばいいのに――とかそれらしく言ってみる。

 

「……んぅ」


 突然、やや艶のある声が静まる部屋に小さく響いた。

 何かな……?

 布団が擦れる音、もぞもぞと動いているような音も。

 僕は身を起こしベッドの方を振り返った。だけど、今日は月も出ない暗闇で部屋の中は本当何も見えなかった。


「んっ……ふっ」


 濡れたような声を漏らすライラ。

 んん…? ちょっとこのまま表現するのはいけないかなと思うけど、あ、でも、いや、もしかして……。

 灯りをつけるのもちょっとあー、うん。

 僕は手探りで杖を掴んで。見えない中天に掲げる。

 そして、すこぶる声を落として。


「(ヤミエル!)」


 と唱える。

 光を出すのではない。でも、暗闇でも目が効くようになる。忍びにはもってこいだと思う。

 いつもと違って、杖からは光は出ない。逆に黒いモヤっぽいのが感じられた。

 瞬間、あたりが見えるようになった。見えるというか視えるというか。見えてるわけじゃないと思うけど、ひとまずライラの姿が確認できた。


「!?」


 背丈の小さいライラが僕の服を半ば強引にぶんどって着ていたけど、案の定大きさは合わない、つまりダボダボな状態で肩はむき出しになっていた。弱い身体ながら『女性』という雰囲気は紛れもなく出しうるもので、違う!

 そうじゃない!


 どこか苦しそうにしているライラ。うなされているのか? 息苦しそうでもあった。


「ら、ライラ!?」

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