11.恋愛談義

 ある日、サリアの髪型が変わっていた。いつものボブカットではなく、後ろの髪を縛り、短いながらもポニーテールにしていたのである。当然、ミリアーネが放っておくはずがない。


「なんで髪型変えたの?さては恋しちゃったね?それとも失恋かな?」


「うっとうしいな朝から。別に深い理由はない。髪が伸びたから、まとめただけ」


 ミリアーネはニマニマしながら、


「でも髪を切らないってことは、その髪型けっこう気に入ったわけでしょ?自分で自分のことカワイイと思ったわけでしょ?」


「うるさいよ!なんたる屈辱……!」


「あら、私は素敵だと思うわ」


 エルフィラが天真爛漫に言ってのける。


「ポニーにするとサリアが内に秘めた意志の強さが全面に出ている、って感じかしら。いつものボブはサリアのクールな面が出ているような気がするけれど、どちらもよく似合っているわよ。ミリアーネも、おしゃれをおちょくるようなことを言ってはダメよ?」


「エルフィラって、思ったことをストレートに言葉にするよね」


 ミリアーネが感心している。サリアは赤くなりながら、


「そこまで丁寧に評論されると恥ずかしい……はい、この話終わり!早く朝食とって訓練行くぞ!」




 朝食をとりながら、ミリアーネが口を開いた。


「実際のところみんな、好きな人いるの?」


(子供の会話かよ)とサリアは言いたくなったが、いつもの騎士道物語談義を聞かされるよりはマシだと思ったのでこの会話を続けることにした。


「私はいないよ。あんまり興味もないかな」


「嘘だあ。あんなに恋愛小説ばっかり読んでるのに」


「今日のミリアーネはいつもに増してうっとうしいな。まあ、でも……恋愛小説のような恋ができるならしてみたいとは思う」


「顎を持ち上げられて強引にキスされたり、壁ドンされて結婚迫られたりね。真面目な顔して、意外と乙女ですなあ」


「なんでそういう極端な例ばっかり出すんだよ。そういうミリアーネはどうなんだ」


 ミリアーネは自分も今はいないが、いつか騎士道物語のような恋をしてみたいと言った。


「勇者パーティに入って冒険して苦楽を共にするうち、いつのまにかお互い意識しちゃって、ついにとある夜に一線を」


「わかった。エルフィラは?」


 このままだとすがすがしい朝にふさわしい内容ではない話が始まりそうだったので、サリアは急いでエルフィラに話をふった。エルフィラはモジモジしながら言う。


「私、男女の恋愛というよりは、同性で仲良くしている方が……」


 ここまで聞いて、恋愛小説愛読者のサリアはすぐにピンときた。


「あー、そういう趣味の女性多いもんね。筋肉男子とムキムキおじさん、みたいな?」


 エルフィラはいっそうモジモジして、


「そうじゃなくて、えっと、女の子と女の子が……あ、でも誤解しないでね。私が好きなのはあくまで傍観者として眺めていることであって、自分が誰かとそういう関係になりたいとか、そういう意味じゃないの。それにサリアとミリアーネが仲良くしているのを見てそういうのに興奮するとかいうこともなくて」


 早口でまくし立てる彼女を見て、サリアは話を切り上げることにした。


「いや、もうわかったから、この話ここまでにして訓練行こう。あとミリアーネと私は別に仲良くないから大丈夫」


「ねえ、さっきから2人の会話よくわかんないんだけど」


 ミリアーネが首をかしげている。







「隊長は好きな人いるんですか?」


 その日の訓練の休憩中。後先考えずこういう場違いな発言をするのは当然ミリアーネである。ベアトリゼ隊長は訝しげに、


「藪から棒にいきなりどうした」


「今朝、サリアが顎をクイっとされて強引にキスされた後に壁ドンされて結婚迫られたいと言っていたので、隊長にもそういう願望があるのか気になりました」


「バカ!そんなこと言ってないだろ!」


 サリアが真っ赤になって否定する。隊長は2人の掛け合いをバカを見るような目で見ていたが、やがて言った。


「私はあまり興味ないな。他人の恋愛を見ている方が好きだ」


 ちょっと歯切れが悪くなって、


「まあ、その、なんだ、例えば筋肉男子とムキムキおじさんがだな……。わかるか?いや、わからないなら気にするな。こういうのはだいたい他人に理解されない」


 途端にエルフィラが大声を上げて、


「わかりますわかります!私も他人に理解されたことありませんから!」


「うわ、びっくりした。エルフィラ、貴様そんな大声が出せるのだな。しかしおまえも同志か」


「はい!私は女の子の方なんですけど!」


 サリアは思った。(隊長はそっちなんだ……)


「ねえ、今日はみんなの言ってることがぜんぜんわかんない!みんな何の話をしてるの?恋愛の話はどこいったの!?」


 1人だけ理解できていないミリアーネが口をとがらせながら言った。

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