★ベラEND 【彼女の忘形見】


「クルス……!」


 涙で霞んだ視界の中にはベラがいた。


 いつも明るく元気な彼女には何度も助けられた。

そして少しばかり、ロナに似ているベラにクルスは情けなくも縋り付きたくなった。


「泣かないのだ。僕も我慢するのだ……」


 夕日が水平線の向こうへ沈み、夜が訪れる。


 クルス達は絶海の孤島へロナを手厚く葬ると、そこを後にするのだった。



⚫️⚫️⚫️



 東の魔女は滅び、聖王国には再び平穏な日々が訪れた。

 誓いを交わしたクルス達だったが、ロナを失ったことにより、それぞれの気持ちに隔絶が生じる。


 セシリーはフェアとともに、人知れずどこかへ旅立って行く。

これ以降、二人がどこで何をしていたのかは分からない。


「ベラさん、先輩のことをお願いします……」


 ビギナはそう告げると、ゼラと共に去ってゆく。

これがこの二人との最後の別れであった。


「クルス、帰ろうなのだ。僕たちの森へ。ねえ様と過ごしたあそこへ」

「……」


 ベラは小さな手で、必死にクルスの手を掴んでくる。

 クルスはベラの手を握り返し、共に樹海へ帰ってゆく。

そして二人はロナとの思い出を胸に秘めつつ、二人で静かに暮らし始めた。



 そして3年の月日が流れた――



「ただいまなのだぁー!」


 今日も"Dランク冒険者、双剣使いのドッセイ"として依頼を終えたベラが、樹海の住処に戻ってきた。

今のベラは生活の要で、クルスは樹海に留まり、彼女の帰りを待つ生活を送っている。


「お腹空いたのだぁ。今日はなんだ?」

「サンダーバードのシチューだ。間も無くできる」

「なんだ、またサンダーバードかぁ? クルスはそればっかり食べるな? 僕飽きたのだぁ!」


 ベラは不満そうにそう言いつつ、皮の鎧を外している。

そんな彼女の背中を見て、クルスは僅かにロナの姿を重ねて見てしまっていた。


 ベラはマンドラゴラという魔物のため、これ以上成長することはないらしい。

それでもロナを重ねて見てしまうのは、三年もの間、誰とも合わずベラと過ごしたためか。


「な、なんだぁ、ジロジロみて! 恥ずかしいぞい……」

「あ、むぅ……すまん」


 クルスは恥ずかしがる、ベラから視線を外してシチューの入った鍋へ視線を落とす。


 意図せず、頬が緩んだ。ここ最近は、幾分か心が軽いと思った。

それは一重に、ベラの明るさがあるからだと思った。


 時の流れと、いつもそばにいてくれるロナの忘形見であるベラの存在ーーその二つが、3年も掛かったが、クルスの胸から叙々にロナを失った悲しみを忘れさせ、癒し始めている。


「相変わらず旨いのだ! クルスは料理上手なのだ!」

「ありがとう。遠慮せずにもっと喰え」

「おう!」


 ベラは本当に美味しそうにクルスの作った食事を食べてくれている。

きっとロナも、こうした気持ちが心地良くて、一生懸命食事を作り続けてくれたのだろう。


ロナを失った傷跡はまだ時々クルスを苦しめている。

しかしいつまでも立ち止まっている訳には行かない。


 自分を立ち直らせるために、いつも明るく振る舞ってくれている、ベラのためにも


「なぁ、クルス」

「なんだ?」

「そろそろ……なんだ、僕と一緒に……冒険しないか?」


 ロナを失った直後から今日まで、クルスは樹海の外への興味が失せていた。

しかしベラとならば、また昔のように外へ出て、楽しく過ごせるかもしれない。

 ロナに見せてやれなかった、外の世界をベラには見せてやれるかもしれない。

 これからの生き方として、これは良いかもしれない。


「そうだな。そうするか」


 クルスの答えに、ベラは満面の笑みを浮かべる。

 その顔を見て、クルスはまるでロナのようだと思うのだった。



 ベラEND



*次の更新がトゥルーエンドです。お楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る