★【ゼラ】のところへゆく


(たしかゼラはフルバ達の下へ向かった筈だな)


 ティータンズの街中で様々な調査を行っている獣の耳を持つ種族:ビムガンを見て、クルスはそう思った。

どうやらフルバ達は既にティータンズ入りを果たしているらしい。


「忙しいところ申し訳ない」

「おっ! こりゃクルスの兄貴! お疲れさんです!」


 近くのビムガンの男へ声をかけると、彼は膝に手を付いて深々と頭を下げた。

 正直、かなりくすぐったい。

 

「ゼラを見かけなかったか? 探しているのだが」

「お嬢ですかい? お嬢でしたら、ギルド集会場で族長と話しておりやす。良けりゃご案内いたします!」

「よろしく頼む」


 男に先導されて、クルスはティータンズのギルド集会場へと向かっていった。

 道中に出会うビムガンは揃って、クルスに頭を下げてゆく。

 おそらくフルバと”兄弟盃”を交わした影響なのだろうか。

 クルスはくすぐったさを覚えつつ、集会場の前にたどり着いた。

 

「族長! クルスの兄貴をお連れしやした!」


 男がそう叫ぶと、扉が開かれ、やや肌が褐色がかった、鎧姿の犬耳の女性ビムガンが姿を見せる。

 ゼラの母親で、第二夫人のブラウン=リバモアである。

 

「クルスか。ちょうどいいところに来た。入れ」


 緊迫した声音のブラウン夫人に緊張を感じつつ、クルスは中へ入って行く。

 

「来たか、兄弟」


 最奥に難しい顔をして胡坐をかく族長フルバ=リバモワは難しそうな声を上げ、

 

「クルス先輩!」


 彼の前で正座をしていたゼラは弾んだ声を上げた。

 

「これはどういう状況なんだ?」

「クルス先輩からも転進の必要性を訴えて欲しいっす!」

「必要性を?」

「そうじゃ。わしは仲間1000の命と、その家族の未来を預かっちょる。たとえ、東の魔女が復活しようとも、そう簡単には首を縦に振ってやれん。しかも本人じゃなか言葉は信じん!」


 フルバはギラついた目で、クルスを睨んできた。

あちらも真剣。しかしこちらも真剣なのは変わらない。


「なら勝利を確約すればいいんだな、兄弟?」

「なんじゃと?」

「俺たちは必ず東の魔女を倒して見せる。その策がある。しかしやはり俺たち七人では心許ない。だからこそ、勇猛果敢なビムガン1000の力を借りたいと考えている」


 クルスはフルバへ傅き、深々と頭を落とした。


「頼む、フルバの兄弟。ビムガン1000の命とその家族の命運を俺に預けてくれ。頼む」

「兄弟」


 のっそり立ち上がったフルバはクルスの前へ立った。


「勝つという言葉は、本当じゃろうな?」

「本当だ。しかし多少の血は覚悟してもらうことになる」

「ほぅ? じゃが必ず勝つと。そういうことじゃな?」

「そうだ」


 クルスはフルバの目を見て、淀みなくそう答えた。


「わしらは死が怖いわけではないけぇ。そこに命をかける意味があるかどうかが重要なんじゃ。犬死はならん。しかし、戦う意味があり、そのために死ぬこたぁ恐れん。戦士の家族も同じ思いじゃけん。それに答えられるな、兄弟?」

「勿論だ。この戦いには聖王国の未来がかかっている。流れる血は決して無駄では無いし、俺たちは決して無駄にはしない。必ず!」

「ほうか……クルスの意思、よぉわかった! お前の男に免じて、力貸しちゃる!」


 フルバは大きな手を差し出して来た。クルスはそれを握り返す。


「聖王の親父にも救援要請だすけん。期待しちょれ!」


 こうしてビムガンとの共闘はあいなったのであった。


……

……

……



「いやぁー助かったっす。とと様、ああいうところは生真面目でしてねぇ」


 魔法学院の校舎へ戻る最中、ゼラは苦笑いを浮かべながらそう言った。


「仕方あるまい。フルバの気持ちは良くわかる。俺も、ゼラも皆の命を預かる身だからな。たとえ世界を守るための戦いだったとしても、依頼主ではない誰かに頼まれたら、俺も首は振らん」

「クルス先輩……」

「済まなかったなゼラ。俺も同行すべきだった。許してくれ」

「っぅ……!」


 ゼラは妙な声を上げると、立ち止まった。何故か肩が震えて、しきりに太ももを擦り合わせている。


「ど、どうしたんだ?」

「はぁ、はぁ……な、なんで、先輩は……」

「?」

「なんでクルス先輩は、そう男前なっんっすか! なんでそんなにかっこいいんっすか!!」


 ゼラは無理やりクルスの頬を掴んだ。彼女は少し背伸びをし、いきなり唇を奪われた。


「な、なんだ急に!?」

「めんごっす……我慢しきれなくてつい……でも、今はここまでで我慢するっす! でも全部終わったら、この後、お願いできるっすか?」


 いつもは同性のように感じているゼラが、あどけない少女に見えた。

クルスは胸を高鳴らせる。


「わ、わかった。善処しよう……」

「ういっす! やったっす! そんときゃウチめっちゃ頑張るっすね!!」


 あまりこのことはビギナに知られないようにしよう。

そう誓うクルスなのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る