★【フェア】のところへゆく



「はぁっ!」


 フェアは気合の籠った声と共にサーベルを突き出し、

 

「っ!!」


 クルスは間一髪のところで短剣をかざし、サーベルの刃を受け流す。

 

「まだまだぁー!」


 しかし、フェアの猛攻は留まるところを知らない。

 サーベルの鋭い連撃は防ぐのが精いっぱいで、クルスへ攻撃の暇を与えない。


「くっ――!」


 サーベルがクルスの手から短剣を弾き飛ばした。そして短剣の刃が地面へ刺さるよりも早く、フェアのサーベルがクルスの喉元で鋭い輝きを放つ。

 

「参った。完敗だ……」

「ありがとうございました。ようやく自分の力で一本を取ることができました!」


 フェアはいつものように冷静に、しかし僅かに声を弾ませつつ、サーベルを鞘へ納める。

 彼女との戦闘訓練でのクルスの戦績は25戦中21勝2敗2引き分け。

 

 かつてのフェアの一勝は、偶然が重なった結果だった。故に、今の勝利こそが、フェアが初めてクルスから奪った1本であった。

 

 少しフェアと話すつもりで、学院の闘技場を訪れたクルスだったが、彼女から「決戦前に最後の稽古をつけてほしい」とせがまれ、今に至る。

 結果としては、言葉を交わすよりも、騎士であるフェアにとっては良い調整になったのではないかと思うクルスなのだった。

 

……

……

……


「突然の申し出を快諾くださりありがとうございました。クルス殿おかげで良い勝ちのイメージを作り上げることができそうです」


 稽古を終え、闘技場の隅に並んで座って呼吸を整ながら、フェアはそう言った。

 

「そうか、ならばよかった。随分と強くなったな。もう接近戦では俺は君に敵わん」


 闘技場の隅の壁に背中を預けながらそう評すると、フェアの横顔に眩しい程の笑顔が浮かび上がる。

 

「こうなれたのも、クルス殿が日々鍛錬に付き合ってくれたおかげです。ありがとうございました。貴方は私の真の師です!」


 いつもは鉄面皮を崩すことが少ないフェアが、満面の笑みを浮かべた。

 その愛らしい笑顔に、意図せず胸が鳴った。

 

「クルス殿?」

「いやなんでもない……」


 直視できず視線を逸らしてしまう。すると、隣でフェアが立ち上がった。

美しく、そしてまだ少しあどけなさの残る女騎士は、クルスの前に立ち、そして傅く。


「どうかしたか?」

「クルス殿、お手をお貸し願えませんか?」


 言われたとおりに手を差し出す。フェアはその手を、まるで尊いものを扱うかのようにそっと持った。

 そして、岩の様にごつごつとしている手の甲へ、フェアは柔らかさを感じる唇を添えてくる。

 

 突然のことに心臓が跳ね上がる。しかしフェアを驚かせてはいけないと思い、ぐっと我慢する。

 やがてフェアの真剣な眼差しが、クルスへ向かってきた。

 

「これは師である貴方への敬意。そして誓いです」

「誓い?」

「はい。私はセシリー様の騎士です。しかし同時にこの時より、皆の騎士であるとも宣言いたします。そして皆を束ね、柱の役目を果たしているのがクルス殿ですので、代表をして誓いを宣言いたしました」


 フェアは本当に成長し、正真正銘の、凛々しくそして強い騎士に成長した。

 そのことがクルスは嬉しくてたまらず、つい笑みがこぼれ出てしまう。

 

「そうか。では皆のことを頼んだぞ、騎士フェア=チャイルド! 活躍を期待しているぞ!」

「イエス マイ ロード!」


 クルスとフェアは互いに手を取り合い、固く結びあう。

 フェアに頼もしさを覚えるクルスなのだった。

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