第63話対決!キングワーム!!

 


「キシャァァァ!!」


 キングワームは接近するクルスたち4人へ向けて吠えた。三つの首が同時に、しかしそれぞれ違った動きで襲いかかる。

 4人はそれぞれ跳び、キングワームの噛みつき攻撃を回避した。


「喰らいなさい!」


 セシリーは空中で何度も袖を振り"刃のついた種"を無数に撃ち出した。


「ふん!」

「どっせーい!」


 フェアとベラはそれぞれの武器でキングワームを切りつける。


 仮面を被り、人面樹トレントの怪人となったクルスも、弓を射る。

 四方からの同時攻撃を受けた首の一本が、苦しそうな悲鳴を上げた。

すると残り2本の首が動いて払い除ける。その間に同時攻撃を仕掛けた首の傷がみるみるうちに塞がっていった。


(三本の首を同時に倒さねばならないのか。厄介な……)


 そうは思えどやるしかない。このままキングワームを放置してしまえば樹海の生態系が大きく狂ってしまう。相手がどんなに強大と思えど倒すしかない。クルスたちは果敢に巨大な三又首竜へ挑んでゆく。


「あは!」


 その時、サリスが飛び上がり、錆爪ラスティネイルで真ん中の首を後ろから切りつけた。

次いでオーキスが跳び、サリスが付けた傷を、魔力を纏わせて緑に輝かせた木の棒で激しく殴打する。


「リンカ!」

「うん! フレイムショットランス!」


 リンカは勇ましく赤く輝く魔法の杖を突き出す。杖から発生した炎の大槍は周囲を赤く照らし、空気を焼きながら飛ぶ。

真ん中の首が爆発し、キングワームは大きく怯んだ。


「やったねリンカ! さすがだよ!」

「あ、ありがとう!」


 リンカはオーキスに賞賛と同時に小瓶に入った魔力の回復薬を受け取る。


「あの! 一番いい攻撃したのサリス様だと思うんだけど!」

「うん、そだね。サリスの攻撃も良かったよ!」

「でしょでしょ?」

「オーキス、サリスちゃん! こいつを倒してお腹からハインゴックの死骸を取り出さないと実習の単位がもらえないよ! だから頑張ろう!」


 リンカはオーキスから貰った回復薬を飲み干しリーダーらしく、方針を叫んだ。もう心配はいらないらしい。


 そしてリンカたちの向こう側では、錫杖に青い白い魔力の輝きを宿すビギナの姿があった。


「やるよ! ゼラ!」

「おうっす! ちびっ子たちが一生懸命討伐したハインゴックを横取りしたやつにはお仕置きっす!」


 ゼラもまた大剣を構えて臨戦態勢を取った。


 樹海の怪人たち、魔法学院の一年生たち、そして冒険者ビギナとゼラ。

キングワームを取り囲むのは9人の精鋭たち。生まれも、育ちも、境遇さえも違う9人が、共通の敵を倒すために一同に介している。

 

 キングワームは真ん中の首を再生させて、怒りの雄叫びを上げた。


「オーキス、サリスっち! ウチに続くっす!」


 ゼラは先陣を切り、オーキスとサリスもキングワームへ向けて走り出した。


「私たちも行くわよ!」

「御意!」

「おうなのだ!!」


 セシリーを筆頭に、フェアとベラが続く。

 あらゆる方向から接近に、キングワームの三又の首は誰を攻撃して良いのか分からず混乱した様子を見せた。


「サリスっち!」

「あは!」

「私も混ぜていただこう!」


 ゼラの大剣、サリスの錆爪、そしてフェアのサーベルが、それぞれ鋭い軌跡を描いて、左の首を跳ね飛ばした。


「これでおしまいよ!」

「はぁっ!」


 セシリーの棘の鞭とオーキスの魔力で強化した木の棒が、右の首を叩き潰す。


「どっせーいっ!」


 止めにベラは双剣を過らせ、打撃攻撃でほとんど肉塊と化した右の首を跳ねる。

 そしてクルスは残った真ん中の首の口の中へ矢を打ち込んだ。

喉の奥を射抜かれた真ん中の首は天を仰ぐように苦しみを表す奇声を発する。


「リンカさんやるよ!」

「はい!」


 ビギナは錫杖を、リンカは魔法の杖を掲げて、人の耳では理解できない"高速詠唱"を行う。

魔法へ指向性を与える2人の得物に紫電が迸った。


「「メガサンダァーっ!!」」


 鍵たる言葉重なり合い、2筋の稲妻が轟きを上げながら現出する。

それはクルスが打ち込んだ矢を避雷針がわりにして、重なり"ギガサンダー"並の稲妻となって、キングワームの真ん中の首へと迫る。


「キシャァァァ!!」


 突然、残った真ん中のキングワームの首が吠えた。

同時に喉の奥から金色に輝く"光線"を吐き出す。それはビギナとリンカが放った、重ね掛けをして威力を増幅させたメガサンダーをかきけした。左右の首も泡ぶくように再生し、真ん中と同じく、金色の光線を吐き出し始める。


「全員散会! 一箇所に固まるな!」


思わずクルスはそう叫んだ。一同はその声に従って、各々の動きを見せ始める。


 セシリーの放つ種は光線で全て焼き尽くされた。ビギナとリンカも魔法を放つが、そのたびに空いた首が光線を発してかき消されてしまう。


「わわ! こ、これなんっすか!?」


 光線が僅かに掠ったゼラは、一部が"石化"した腕甲をみて驚きの声をあげている。

 どうやらキングワームの光線は"石化状態異常"のおまけが付いているらしい。

よく見てみれば、光線が掠った木々が僅かに石化している。


 そんな凶悪な光線の前にゼラを筆頭とする物理攻撃集団はキングワームに近づけず逃げ惑うのみだった。


 9人もいながら形成はすっかり逆転していた。これが危険度SSと言われる魔物の実力か。

ならば、目には目を、歯には歯を。


「ロナ、また申し訳ないが君の力を借りたい。頼めるか?」

「わかりました! なら私のところまで連れてきてくだしゃい!」


 脇に生えた蔓に咲いた"ちびロナ"は頼もしい返事を返してきてくれる。


 ロナの力を借りてこの強大な相手をどう倒すか。クルスは考えた。


 驚異的な再生能力、自在に動くみつ首、そして魔法さえもかき消す光線。

この三つの要素をいかにして封殺するか。そこへ焦点を絞って考え、案をまとめる。


「クルス! なにか思いついたのか!?」


 丁度よくベラが近くへ降りてきてきてくれた。


「ああ。ロナの力を借りればおそらくは。これから全てを伝える。フェアと分担して、それぞれへ役割を伝えてもらえるか?」

「おう! 任せるのだ!」


 クルスから要領を伝えられたベラは内容を軽く復唱した。各々へ伝えるために走り出す。


(頼んだぞベラ!)


 そう思いつつ、クルスはキングワームの首へ矢を放った。一発では気づかれなかった。しかし恐れずに、まっすぐと弓をキングワームめがけて矢を撃ち続ける。


 やがて左の首が忌々しそうにクルスを見下ろしてきた。


「キシャァァァ!!」


 牙を差し向けてくるのは予想どおり。クルスは足元から生えたロナの蔓の力を借りて樹上へ飛び移る。

そして再び矢を撃ち込む。いくら細い矢を撃ち込んでも良いダメージを与えられているとは到底思えない。

しかし注意は引けている、これで十分。

すると、クルスが矢を放つのと同時に、横へセシリーが舞い降りて袖から無数の種を撃ち出す。


「ベラから聞いたわ! やるわよクルス!」

「ああ!」


 キングワームのみつ首が光線を吐くのを止めて、樹上のクルスとセシリーを見下ろす。

"注意は引けた"――そう判断したクルスはセシリーと共に樹上から飛び降りた。

 2人が駆け出すとキングワームは、木々をなぎ倒しながら追い始める。


「さぁ、準備できたのだ! 追うのだ!」

「あのさ、なんでさっきまで戦ってた奴にいうこと聞かなきゃいけないわけ? サリス様不審なんですけど?」


 サリスは赤い瞳でベラを睨みつける。


「た、たしかにそうだけど……でも、このままじゃハインゴックの死骸を取り出せないかな?」

「そうそうリンカの言う通りだよ! そんなこと言ってる場合じゃないとあたしも思うかな? それに今のリーダーはリンカだから、あたしはリンカの指示に従うよ!」


 リンカとオーキスも首を傾げながらも、状況は分かっているらしい。

サリスは閉口して、それっきりなにも言わなくなった。


「よ、よし! みんな行こう! マンドラゴラさん、案内お願いします!」

「おう! まっかせるのだぁー!」


 ベラを先頭に魔法学院の一年生たちはキングワームを追い始めた。


「我々も参りましょう!」

「はい!」

「ちょーっとまったっす!」


 フェアと共に飛び出そうとするビギナをゼラが止めた。


「たしかにサリスっちたちのために戦う気持ちはわかるっす。そこのキノコの魔物さんが伝えてくれた作戦も納得の内容っす。でも、信じて良いんすか?」

「じゃあ、良いよゼラは来なくて」


 ゼラの言葉にビギナは迷わず答えた。さすがのゼラも、鬼気迫る様子のビギナにたじろいでいる。


「信じてるから私」

「だ、誰をっすか?」

「……人面樹トレントの怪人……きっと、この案を考えてくれたのはあの人だから……」

「あーもう、わかったす! そいじゃいっちょウチもやっちゃいましょうかね! さっさと行くっすよ!」


 ゼラは真先に走り出した。そしてビギナとフェアも続いてゆく。

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