第35話 生まれ変わり
最近、よく同じ夢を見るの。
行ったことないきれいな川辺で川遊びをしていて、周りには誰もいない静かな場所。お父さんが怖い顔をして私の横にいる。お母さんはどこだろう、と思って探すと、後ろの方に緑の新品のテントがあって、そこで赤ちゃんを抱っこしている。私には弟も妹もいないのに。変だよねえ。
お父さんが急に私を押し倒す。力強いお父さんに押さえつけられたらもう動けない。そのまま、川に落とされる。冷たい。息ができない。もうだめ…
そこでぎゃーって叫んで、目が覚める。汗びっしょりで、毛布から出ると体がひんやりするから嫌。
お母さんとお父さんは私の叫び声で心配して来てくれる。私はほっとして泣いちゃう。でも、夢がどんな夢だったかは言わない。だって、優しいお父さんに殺される夢だなんて、お母さんは知らない赤ちゃんを抱っこしていて、助けてくれないよ、なんて、言えるわけがないでしょう。そんな夢を見てしまう私も嫌いなんだ。
だから余計に心配させちゃっていて、ごめんね、で心がいっぱい。お母さんとお父さんは、リフレッシュした方がいいかも、っていう話になって、じゃあキャンプとバーベキューをしよう、ということになった。
「静かで、すごくいいところを知っているの」
「そうか、あそこは穴場だからね、リフレッシュにぴったりだ」
友達のローちゃん一家と一緒に行くっていうから、キャンプはすごく楽しみだった。車の中でローちゃんとお話ししていたら、あっという間に目的地に着いた。
「平日だと本当に誰もいないんだけどな」
お父さんがつぶやいた。橋の上から下を見ると、きれいな川が流れていて、何個かテントも見える。
どこかで見たことがある気がした。下に降りると、確かに知っている。あっ、あの夢の場所にそっくりなんだ。
「ローちゃん、私ね、この場所、夢で見たことがある」
「ええ、予知?」ローちゃんはあまり本気にしていなそうだ。お母さんがにこりと笑う。
「ああ、もしかしたら、赤ちゃんの頃、一度だけ来たことあるから、ぼんやり覚えていたのかもね」
「そんなこと、あるわけないだろう。何歳だったと思っているんだよ」
お父さんが少し怖い顔でお母さんに言うから、私は少し悲しくなった。
「あっち、魚!」
ローちゃんと一緒に川に近づく。魚が泳いでいるのが見える。川の砂利が集まっているところまで、ぴょんと跳んでいける。
「気を付けて」お母さんの声が遠くから聞こえる。声の方を見ると、お父さんたちがテントを張っている。汚れているけれど、緑のテント。
ここ。やっぱり夢の場所だ。そして、あのテント。
お父さんが私たちに気づいて、こっちに歩いてきた。いつもの優しいお父さん。夢で見た、怖いお父さんじゃないけれど。
「危ないから、あっちの方で遊ぼうね。川は実は深いんだよ」
ローちゃんが私の横を走って、テントの方へ向かっていった。お父さんと二人で向かい合うと夢の内容が、まるで映画みたいに私の頭の中で再生された。怖い。いや、怖くない、怒っている…?私ではない、他の誰かの気持ち…?
「もう、ぼくを殺さないで」
お父さんはおびえた表情に変わる。お父さんには、私じゃなくて、誰か別の人が見えているみたい…。
数年前に、この川辺に遊びに来た四人家族がいた。そのうちの男の子が川の中の中州を目指して勝手に走り出し、溺れてしまった。父親の救助もむなしく、その子は死んでしまったそうだ。
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