第33話 パワースポット

ネット上でパワースポットとして人気になっている神社があった。話によれば、神社から光が出ているのを人工衛星がとらえたとか、なんとか。由緒正しい神社らしいが、田舎町の神社にここまでスポットライトが浴びたことはなかっただろう。

俺もそんな流行に乗った内の一人だ。とは言っても俺はそういうパワースポットだのスピリチュアルだのは興味がないし、信じていない。だが、彼女はこういうのが好きだった。

「もう観光客が増えていてすごいらしいよ!」

「田舎だし不便だよな。よくみんな行くよ。暇なのって話」

「だから、そういう場所だからすごいパワーがあるんでしょうが」

彼女の勢いに負けて神社に行くと、確かに観光客が多い。そして明らかに周囲の雰囲気に合わない新しい看板には、神社の歴史やパワースポット巡りをするための地図が書かれていた。

「なるほど、この井戸とかすごそう。あと、この池」

井戸はきれいな湧き水が出ていて、近くの人はありがたがって飲んでいるそうだ。一口手にすくって飲んでみる。冷たくてうまい。

「パワーもらえるよ」彼女が嬉しそうだから、まあいい。

次に願い事を念じながら粘土の玉を投げて、岩の上にある的に当たると叶うとかいう小さな池。池の中の岩にはカメがくつろいでいる。正直、危ないのではないかと思いつつ、粘土の玉をにぎる。やわらかい。1回500円。高い。

「さあ、幸せを祈って投げよう」

彼女が投げると的に見事当たった。

「やったー」

「何願ったの」

「内緒だよー」

色々回って、とにかく彼女が嬉しそうだから良しとする。俺はこの神社ではパワーを感じることはなかった。というか、人が多すぎるし、商売根性が垣間見える。だって、一番安い御守りでも「宇宙まで願いが届く!」とか書いてあって、値段は1000円。1000円って。

その夜は神社からすぐ近くの旅館に泊まった。旅館では夕飯に地元の名産の魚料理が出たので満足して、少し休んで、というところ。

部屋の外の自動販売機で酒を買っていたら、旅館の人と思われるおばさんが俺に突然声をかけてきた。

「あの、神社にまいられましたか。どうでしたか」

「彼女は楽しそうでしたよ、俺はああいうのはちょっとよくわからなくて、」

「池には行きましたか」

「ええ」

「ああ、やはり」

不安そうな、険しい顔をしている。

「なんすか」

「あの神社、急に人が増えたでしょう。実は、特に、あの池。人が欲望とか悪い気をいっぱい投げ込んだせいで、パワーのバランスがおかしくなっているんです」

「はあ」俺には意味が分からない。

「彼女は?一人にしないほうがいい」

「今、部屋で休んでいますけど…」

嫌な予感がして、俺は部屋に戻る。彼女がいない。彼女のバッグやスマホはそのままだ。

「神社だ」おばさんは怖い顔で言う。

俺とおばさんは急いで神社へ向かった。この辺は田舎、外は真っ暗だ。こんな道を彼女が一人歩いていくなんて考えられないのだが。

「まだ信じられないかもしれないですが、前にもこんなことがあったのです。私は、そういうパワーに敏感なタイプで、なんとなく、敏感な人がわかるんです。あなたの連れの方も、危ない感じがしていました」

神社が近づいてきた。大きなぼちゃん、という音。

「池の方だ…遅かったかも」

頭が真っ白になる。なぜ、彼女が?


彼女は池の中でずぶぬれのままぼんやりしていたところを保護されていた。おばさんが言うように、最近同様の変なことが起きていたため、神社の氏子が見回りに来てくれていたそうだ。

彼女は次の朝、普通に起きてきた。何があったか、覚えていないそうだ。

おばさんはこの神社に関わるものは絶対に持って帰るな、と言っていた。もうパワースポットとしての力はほとんどなく、人の負のエネルギーしかない、というのだ。

俺はパワースポットとかは信じないが、…むやみに近づかないことだ。

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