第31話 動画

そこそこ人気のあったYouTuberのサルは俺の友人だった。俺自身はYouTube見ないし、人気があったことを知ったのは最近のこと。そもそも、あいつが俺に連絡を寄こしてきてYouTuberをやっていることを初めて知ったんだ。

「久しぶりに会おうなんて、どうしたんだ」

久しぶりに会うと、あいつは相変わらず明るい感じだったが、年をとったせいもあるのか、くたびれている感じもした。

「ちょっと、頼みがあってさ。俺さ、サルって名前で動画上げているんだけど知ってるか」

「…いや、ごめん、そっちの方は詳しくなくて」

「そうだろうと思った」あいつは笑った。

思えば昔から目立つことが好きな奴だった。といってもテレビの芸能人になれるほど光る才能があるわけではない。YouTubeはちょうどいい身近な、でも世界へとつながる、あいつにふさわしい場だったのかもしれない。

そんな奴と俺は似つかわしくない関係だった。少なくとも周囲からはそう思われていたはずだ。俺は目立つのが嫌いなタイプ。だが、あいつは俺の前だと素の自分でいられる、とか言って、よく一緒に遊んでいた。俺的にもそう言ってもらえるのは悪い気はしないが、目立ちたがり屋の方が素のあいつだと思っていた、正直。

「実はそれでさ、どっきりさせるような動画を上げようと思っているんだ。ちょっとした企画を考えていてさ。協力してくれないか」

「なぜ俺」

「お前、インターネットとか機械とか弱いだろ、だから」

「意味わからん」

あいつとしては、どっきりを進めるにあたり、事情をよく知らない俺がやる方が都合がいいらしかった。確かに俺はインターネットに疎いし、外に情報を漏らすことはない。俺も大げさだな、と笑いつつも、まあそういうものかと思った。

「俺がこういう操作だけしてほしい、っていうのを作ってメールするから、その通りやればいい」

「いくら出す」

「10万」

俺は驚いて目を見開いた。冗談のつもりで「いくら出す」と聞いたら、真顔で大金を出してきたのだ。

「えっ、何、これやばい仕事か」

「いや、今それくらい儲かっているんだよ」

笑いながらサルとしての活躍ぶりをそこで教えてもらった。そこそこ人気がある、とあいつは言っていたが、あいつの言うそこそこ、というのはかなり高い次元の話の違いない。あいつの笑顔には嘘はなさそうだった。

それからすぐにメールが送られてきて、お金も振り込まれていた。メールによれば、もう一度その作業をする前に連絡をするから、作業はその合図があってから、ということだった。だが、その合図は来なかった。


警察が来て、かなり色々聞かれた。あいつは死んだ。海で溺れた。死ぬ前に俺に10万送っていたものだから、まあ怪しまれたわけだが、とにかく本当のことを言うしかない。当然、信用されない。

「だったら、そのメールの作業とやら、やってみてくれませんか」

「でも、連絡してからやってくれ、って言われてて」

「もうその連絡なんて来ないだろうが」

刑事は本気で疑っていた。逆らうのは危ない。とにかく、やるしかない。

メールでの指示内容が描かれた添付ファイルには、結局動画をアップロードする方法が単純に書かれていただけだった。その動画は、ネット上にあって、パスワードを知っている人でないと触れないらしい。

「死ぬ直前に動画を託していた…遺言かな」

刑事はつぶやく。あいつはそういう奴ではない気がする。

動画は3本あった。ダウンロードすると、真っ暗な部屋にあいつがいた。監禁されているような演出。2本目には種明かし、なんちゃって動画です、というオチだった。ただのおふざけ、そう思われた。

「2つで完結だよな。3本目も開け」

3本目も真っ暗な部屋にあいつがいたが、立ち尽くすだけだ。さっきのおどけた感じではない。表情もくたびれている。そして、何か小さい声でつぶやいている。

「助けて…助けて…」

吸い込まれるようにあいつの体はふっと暗闇に消えていった。

取調室は無言。刑事も俺もこれがおふざけではないことを薄々感じていた。もちろん刑事は非科学的なことを認めたくないようだったが、これ以上俺を責め立てることはせず、解放した。

あいつはあちらの世界に連れていかれた。そう考えるほかなかった。

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