第30話 都市伝説

都市伝説を集めるサイトを運営している。オカルトが好きでそういうサイトをよく見ていたのだが、見ていたサイトの更新が終わってしまって、自分で作ってみようと思ったのがきっかけだった。だが、俺の能力では目新しく面白いサイトにできるわけではなくて、作り方ははさみとのり。要するに、中身は他のサイトのコピーペースト、複数のオカルトサイトから切り貼りして、それらしく中身を繕った。ツイッターやアクセス増加ツールみたいなものも使いつつ、何とかそれなりにPVも増えてきた。

そうなると変な欲が出てきてしまう。ネット上では語り継がれる都市伝説とか、オカルト板とかがある。最初に誰が言い出したのか、誰が創った話なのか、もうわからないような物語。事実ではないとはわかっていても、初めて読む人は衝撃を受けたはず。俺も事実なんじゃないか、少なくともそういう世界線があってもおかしくないと思った。そんな風に思わせるような、都市伝説を自分が創って世に出したい。

自分のサイトに、そのほかの都市伝説や怖い話と混ぜて、自作の話をさも巷で語られているかのように投稿してみた。結局、才能がないことが思い知らされた。検索でヒットしにくいこともあるのかもしれないが、そういうページは大抵反応が薄かった。時々、こんな話があるのか、知らなかった、というコメントも見られたが、その程度で、都市伝説として広がる気配はなかった。

これが最後かもしれない、という渾身の一話を投げてみた。世間よ、見てくれ。中身はジェイソンという名前の宛先から荷物が突然送られてきて、それを開けると凶器が入っており、開けた途端に人生の恨みつらみがその人にあふれてきて…なんて話だ。海外の都市伝説、という流れで紹介してみた。

やはり反応は薄くて、自分でも忘れかけていた。日々更新するには、コピーペーストとはいえ、それなりの労力が要る。一回の失敗に構っていられないのだ。もちろん、俺がこうして時間を持て余しているからできることなのだが。

コメントが何件かついた。どれも似たような内容で、この荷物、うちにも来たことがある、開けずに運送会社に返したけど、というもの。俺は嬉しくなった。海外の都市伝説なんてでたらめで、自分で創ったのだから。この話を見て真似た誰かがいたのだろう。ああ、こうして都市伝説は広がっていくってことか。いたずらはあまりよろしくないし、最後の結末はもちろん違うが、やはり嬉しいものは嬉しい。


家のインターホンが鳴った。こんな平日の昼間に来るのは、何かの配達だろう。母親が出るはずだ。俺は出ない。

「なにこれ」

母親のつぶやく声が遠くで聞こえた。階段を急いで登ってくる音。俺への荷物だったのだろうか。俺はそんなもの頼むはずがないのだが。ドアを激しく叩く。何か、怒っているのか。

「開けてよ!」

何事か、そう思って鍵を外し、ドアを開けると、刃物を持った母親が笑っていた。

「こんな時間に引きこもって、…家にいるなんてだめじゃない」

「ひっ」腰が抜けて動けない。母親は、顔は笑いながら、涙を流していた。

「限界だったのよ、ごめんね」右手が振り上げられた。


都市伝説はすべてがすべて作り話ではない、っていう話だ。

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