第26話 できもの

最近肩こりがひどい。湿布やエレキバンを貼ってみたが、効かない。

長続きすると頭痛もひどくなってきていた。病院に行ってみたが異常なし。パソコンかスマホの見過ぎだと言われた。

確かに社会人になってデスクワークが続く。運動はできていない。そういうことなのか、世の中の社会人、大変すぎではないのか。

正直、社会人になりたてで戸惑うことも多いし、これほど私は使えないか、と思わされる日々。私自身、いないほうが会社のためになるような気がしていた。新しい人間関係を作るのにもかなり精神力とスマホでの交流が必要だ。とにかくストレスも大きいのだ。

朝、強い頭痛がして起きた。

「・・・ねえ」

頭の中で声がする。声、というのか、頭に直接届く何か。どうやら頭痛と肩こりで頭がおかしくなったらしい。幻聴というやつだ。

「・・・聞こえているよね」どこかで聞いたことがある声。ああ、私の声だ。想像力が豊かすぎるのかな。

「なんなの、もう、幻聴にしてはうるさいな」

「・・・幻聴じゃねえよ、右の肩を見てよ」

首をぎゅっと右に回してみる。何もない。

「・・・服の上からじゃわかんねえよ」

パジャマの首元を見ると、エレキバンを貼った跡がべとついて、いやなできものができていた。

よく見ると、できものがうっすら顔になっているような…

「えっ」

「気づいた」

できものは私の頭に直接交信してくる。気持ち悪い。何者なんだ。私の頭のもやもやは言葉に出さなくてもそいつに伝わっているらしい。

「まあちょっと、あなたを助けてあげようかと思ってさ。仕事で困っているんでしょ」

「いや、何者」

「私に任せてよ。」

次の日から、まさに天の声のように肩の声が私をサポートしてくれるようになった。仕事の書類を見ると、単純な私では考えもしない一段上のアイデアや知識を教えてくれた。パワーポイントのデザインもセンスが溢れて見やすい。人と話すときも、何をどのタイミングで話すのか、的確にアドバイスをくれた。私の過去の体験もなぜか詳しく、この経験談をこういう感じで話せ、と言ってくれるのだ。おかげで、仕事の同僚とも仲良くなってきた気がする。いつの間にか、この声の通り動けばよい、と全幅の信頼を寄せていた。

甘えていた。友達となった同僚とお茶をしていたとき、少しぼんやりしていて、肩の声のアドバイスを聞こえていなかった。私がうまく話せず、微妙な空気が漂い始めたとき、私の口から意思に関係なく声が出てきた。肩の声がそのまま出てきたのだ。

「でさー、あの係長が」

なんだ、こんなことできたのか。


その夜、お風呂で体を洗う。最近はあの声のおかげでつまらないストレスから解放されているが、肩こりと頭痛は治らない。やはりパソコンとスマホの見過ぎなのか。

できものはかなりふくれている。何か刺激を与えると潰れてしまうかもしれない。

「ねえ、今日助かったわ、ありがとね」

「・・・まあね」

「っていうかさ、あんなことできたんだね。だったら最初からそうしてくれればよかったじゃん。私、コミュニケーションとか苦手だし、頭も悪いしさ」

私の顔がほほえむ。勝手に声が出てくる。

「うん。わかった。もう、あなたは何もしなくていいから」

私の手が思いっきり右の肩を叩いた。できものが潰れた。

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