第21話 宇宙人
「昨日、山に小さい隕石が落ちたらしい。ちょっと見に行こうぜ」
友達が言うので、放課後は近所の山に登った。小学校の頃は秘密基地を作ったりして遊んだところだ。最近は行くことも少なくなったが、昔遊んでいたときの記憶がなんとなく残っていて、かつてよく通った道に来ると、そのときの風景を思い出す。
「ここ、お前と来るのすごい久しぶりじゃん」
「小学校の頃はよく来たよね」
高校生になって、昔一緒だったクラスメートとはほとんどのやつと連絡も取らなくなったが、当時から続く友達がいて、こうしてその友達と登っているのは幸せなことだと思う。
隕石が落ちたらしいところは立ち入り禁止のテープが貼られて近づけないようになっていた。だが、ここまで来て、何も見ないで帰るわけにはいかない。テープを乗り越えていくと、大きい、そして深い穴ができている。小さい隕石というので、大したことがないのかと思っていたが、小さいとはいえ宇宙から降ってきたのだ、その衝撃の大きさは相当のものだったと想像できた。これが街に落ちていたら、ひとたまりもなかっただろう。
「すごいな」
友達もたぶん同じようなことを考えていたのだろう。すさまじい跡を見て言葉が出てこない感じだ。
「もう少し行ってみるか」
隕石はもう警察か誰かが持っていってしまったのだろうか。その破片でもないものかと穴の一番深いところを探してみる。むきだしの土の中に石も混じっているが、それが隕石かどうかは正直わからない。やれやれ、今日は暑い。日差しの下でうろうろしていると熱中症になりそうだ。ふと空を見上げると、何か光るものが見えた。飛行機、ヘリコプター…ではない。何かが太陽の光を反射させているのだが、何なのか説明ができない。ドローンだろうか。
「ねえ、あれ何だろう」
ぼくの声に友達も上を向く。
「UFOじゃねえか、おい」
そう言って興奮したようにスマホを構えて連写した。あれがUFOなのか。半信半疑のままそれを眺めていると、突如として目の前で消えた。ぼくは消えたのを見て正直怖くなっていたのだが、友達はまだ興奮していた。
「結構うまく撮れた。これテレビ局とかに持っていったらすごいかもしれねえ」
「やめといたほうがいいんじゃ…信じてもらえないかも」
消極的なぼくにいらついたようににらむ。
「何言ってんの、一緒に見ただろ、お前が証人になってくれるだろ」
「まあ、そういうのが必要ならね」
友達は帰り道もずっと興奮したままだった。あの穴は宇宙人の何かのメッセージだったんだ、とか、小さい隕石とか嘘を流したのは、そのメッセージを知られたくない誰かの、例えば防衛省の陰謀だ、とか。そんなオカルトの話はインターネットで見るくらいがちょうどいいのだが。そんなことを言えば、また不機嫌になるのだろう。
次の日。高校で会った友達は普通に声をかけてきた。昨日の興奮はどうした?と聞きたくなる。そこまで直接ではなく、
「昨日の写真、どうした?」
「昨日の?何のこと」
「UFOの」
「は?そんなの信じてるんだっけ」
何か噛み合わないやり取りが続き、友達の記憶から昨日の山での出来事がきれいに消えているらしいことに気づいた。山に二人で行った記憶はあるようだが、UFOの部分はないのだ。スマホを見せてもらったが、その写真は一枚もない。これ以上それに触れるとまずい、そう直感した。
小さい隕石が落ちた話も、それほど盛り上がらず、ほかのクラスメートに聞いても、ああ、そんなことあったらしいね、くらいの反応しかなかった。
宇宙人は本当にいるのかもしれない。昨日見たことよりも、友達がそれを完全に忘れたこと、そのことが恐ろしく、事実なのだと思わせられる。そして、友達は記憶を失ったが、ということは、ぼくがUFOを見ていたことを相手もわかっているのではないか。
不安なもやもやした気持ちを残したまま、夜、自分の部屋で空を見上げていた。この空のどこかで、宇宙人がこちらを見ているのかもしれない。そんなことを本気で信じたことはなかった。そんなことを本気で言っていたら、それこそ頭がおかしいと思われるかもしれない。自分で自分を突っ込みつつ、空を見上げる。
突然、大きな鳥が部屋の窓の前に止まった。フクロウだ。こんな場所にフクロウがいるなんて。初めて見た。
丸い目でじっとこちらを見てくる。テレビやインターネットで見るフクロウはかわいいイメージだが、何かこの視線に悪意のようなものを感じる。ぼくが宇宙人のことで悶々よしていたからか…
ぱっと目の前が明るくなったような気がした。外には何もいない。フクロウはどこへ…
山で見たフクロウと同じやつだったのかもしれない。そう思って、友達にラインを送ってみた。
「部屋の前ってすげえな、また今度、暇なときに山に行ってみるか」
「そうだね!」
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