第24話 ほしいなあ

一人暮らしを始めて三か月が経つ。最初は何かがおかしいと感じたくらいだった。置いたものが若干ずれているような気がする。お菓子が少なくなっている気がする。パソコンのインターネット閲覧履歴に記憶のないサイトがある。ただ、記憶力の問題があるのかもしれない、と自虐的に思っていた。

だが、決定的だったのは、ほしいなあと思ってインターネット検索をしていたハンガーセットが、注文していないのに家にあったのだ。すでに支払い済みの状態だった。さすがにお金を支払ったなら忘れないし、払う度に家計簿をつけているのだが、当然記載はない。誰がいつお金を支払ったのか、本当にわからない。

最初はパソコンが監視されているとか、外部から不正アクセスされているとか、そういったことを疑った。なので、とりあえず、パソコンをインターネットに接続するのをやめた。だがしかし。

今度は雑誌の特集でほしいなあと思っていたどら焼きセットがテーブルの上にあった。買った記憶はもちろんないし、そんな形跡はどこにもない。クレジットカードの明細書も確認したが、購入した形跡はない。

そんなことが続き、一人暮らしのところ、ありがたくも思っていたが、さすがに不気味になってきた。もしかして、超親切なストーカーがいるのでは、とか、私は自分の超能力なのではないか、という謎の疑いすら出てきたので、一つ、作戦を立ててみようと考えた。

おおむねほしいなあと思ってから一週間程度でそれが現れるらしいことはわかっていた。それがいつ、どうやって現れるのか、その瞬間を見たことはない。だから、テーブルや玄関に複数の監視カメラをセットすることにした。死角を作らなければ良いのだ。その監視カメラも、ほしいなあ、と念じたら届いたものだ。監視カメラは結構高い。どこからそのお金が出ているのだろうか。

これがほしいなあ、最近思っていたのは世間で人気の小説。出版されたばかりで当然文庫化はまだ。早く読みたいが文庫となる前の本は少し値がはるのだ。インターネットでその本の書評を見つつ、強く念じてみる。この本が届きますように。

数日して、机の上に本が置いてあった。カメラは動いていたはずだ。映像を見るのは緊張するが、これですべて解明される。

再生、早送り。夜、私が寝てからの映像を一気に確認する。すると、部屋を動く影。

誰?

監視カメラに近づく人影。本を持っているのは…私だ。私がこちらに向かってくる。

そして、満面の笑みでカメラに思いっきり寄ってくる。私はこんな顔はできない…私じゃないと思いたい。でも、私なのだ。何かしゃべっているらしく、口元が動いている。巻き戻して、その口元に集中する。

「ア」「イ」「シ」「テ」「ル」

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