第19話 波の音
蚤の市で怪しげな携帯ストラップを買った。例えるのが難しいが、どこか南国の原住民の信仰していそうな変な魔人みたいなもののストラップだ。どこか寂しげな表情が気になった。しかしまあ気になったとはいえ、なんでそんな怪しげなものを買ったのか、というと、安かったから。50円。今考えると、すでにストラップの中に漂う何かに引き込まれていたのだと思う。
いまだにスマホに買い替えていないが、ガラケーにも良いところはたくさんある。慣れていることもあり、使い心地は良い。通信機能は低いが、その分、依存状態みたくインターネットばかり見ることはない。それに、機能性が低いことはシンプルで不要なものを排除したということだ。私にとっては電話とメールで十分。別に友達も多いわけではないし、そもそもSNSのような薄くて広い人間関係というのは得意ではない。ガラケーの良いところはさらにもう一つ。ストラップがつけやすい。
買った怪しげなストラップを早速つけてみると、うん、意外にしっくり来た。どんないわれのあるものかは知らないが、パワーを秘めている気がする。
その夜、23時ころ。携帯電話の着信音が鳴った。マナーモードにしていなかったか。そう思って、電話をとる。非通知。こんな時間にかけてくるなんて迷惑電話に違いない。とりあえず無視していると、着信音は鳴りやんだ。本当に用事ならメールを送るなり、また電話するなり、何かあるだろう。確認したら、設定はマナーモードになっていた。故障だろうか。
次の夜も、そのまた次の夜も、マナーモードのはずなのに23時ころに着信音が鳴った。さすがに気味が悪くなってきたが、しつこいことにいらいらもしてきた。寝る直前に電話が来るのも嫌だし。明日も電話が来たら、出てやろうと思った。怒鳴り返してやる。
そして、また、23時ころ。着信音が鳴った。待機していた私はすぐに電話を取った。
「はい、どちら様!」
怒りの勢いで怒鳴ると、電話から聞こえるのは波の音だけ。人の気配はなく、ただ静かに波の音がする。まるで電話口の向こうは海の上だ。誰かが録音して流しているとか、だろうか。でも、何のために。
「ざぁぁぁぁ…ざぁぁぁ…」
理由がわからないまま、23時に電話が来る現象は続いた。出てみれば波の音。怒りというより不気味だが、誰に相談したらよいかわからない。あるとき、ふと、携帯ストラップに気づいた。これをつけてから電話が来るようになった。まさか。ストラップを外して、夜を迎えた。
思った通り、と言って良いのか、電話は来ない。だが、このストラップは何なのだろう。写真を撮って、インターネットが得意な友達に調べてもらえないか頼んでみた。すると、数日後に早速結果が分かったのだ。
「ねえ、これ、みて」
SNSで霊感を持っている人に偶然出会えたというのだ。で、この写真を見て、どういうことなのか分かったという。
「前の持ち主が船の事故で亡くなっている。その思いが乗りうつっているのではないか」
波の音が聞こえる、という話はSNSでは上げていないので、船というキーワードは確からしい感じがした。
波の音…ざぁぁぁぁ…
この音は持ち主が最期に聞いた音だったというのか。だとしたら、その魂はいつ休まることができるのだろうか。
このストラップの魔人の寂しげな表情が、何かを訴えかけている気がした。
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