第18話 森
大学生の頃、友達二人と離島で宿無し弾丸旅行を計画したことがあった。計画、と言っても、とりあえず島行きたいねー、という話から始まって、じゃあ行こうか、予約とか面倒だし、宿代もったいないし、キャンプ場とかあれば野宿しようよ、という感じ。大学生のノリというやつ。
島の本数の少ないバスに乗って、町外れの寂れたキャンプ場へ行った。本数の少ないバスだから、目的地には行けても帰りのバスはないようなところだ。不便だからか、既につぶれたらしかった。観光客がたくさんいる場所に行きたい訳ではないので、ちょうどいいと皆で選んだのだ。
キャンプ場の周りは森。整備もそれほどされてない薄暗い森だが、離島っていうムードを味わえるので、テンションは上がった。
それぞれ一人で探索しよう、ということで歩いていると、俺は小さなほこらを見つけた。誰も管理していないのだろう、周りは雑草だらけ、ほこらも朽ちてきている。ただ、周りの雑草はきれいな花を咲かせていた。雰囲気あるな、とだけ思った。
だが、よく見ると、雑草の間には、呪術道具のようなきれいな石がたくさん供えられている。曲玉みたいなもの。話の種になると思って、何個か持ち出した。
それぞれ何もない島の自然とその時間を満喫し、夜を迎えた。夜は真っ暗でさすがに不気味だ。張ったテントの中でつまらない話で盛り上がっていると、それまで完全に忘れていたのだが、あの曲玉を思い出した。
「こんなの見つけたんだわ」
「何これ、なんでこんなのあるんだ」
「さあ、昔の宗教とかかな」
「だったらまずいんじゃねーの、呪われるぞ」
なんてふざけながら話し続けていたとき、森の方からガサガサと音がする。近づいてきている。
「なんか音するな、動物かな」
近づいてくる音の主はテントの前に立っているらしい。地元の人か、何であれまずいな、と思っていた。強い風が急に吹いた。
「え」テントの明かりが、消えた。
何か嫌な寒気がしていた。テントの入り口が開いた気がした。真っ暗の中でよくは見えないが、気配がする。
「おい、なんなんだ、誰だ」
友達の一人が叫んだすぐ後、そいつの悲鳴が聞こえた。「ぐわあああ」
ふざけているわけではなく、本当に苦しむ声。恐ろしくなり、俺は一人外に逃げ出そうとテントの入り口に向かうが、転んだ。いや、足を何かが掴んでいるのだ。友達ではなく、毛むくじゃらの何かが。
その後の記憶はほとんどなくて、多分気を失ったのだろうと思う。テントの中は荒れ果てていて、友達もぐったりとしていたが無事だった。
曲玉がないことに気づいた。友達の一人 が疲れ切った声で、でも冷静につぶやく。
「森で拾ったものをむやみに持ってこない、ってことだわな」
この日は片付けて港へすぐ戻ったが、その道中、島の人にそれとなくあのキャンプ場と森の話を聞いてみた。観光客に慣れている島の人は怪しむこともなく話してくれた。
「あそこは森の神が創った森だから、切り開いたときずいぶん災いがあってねえ、小さな神社で鎮めているんだけど、キャンプ場はやっぱりつぶれたね…今の若い子は信じないかもしれないけどね」
俺たちは森の神の怒りに触れそうになっていたのかもしれない。
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