第17話 人形
小さい頃の話。
おばあちゃんが私に人形をくれた。なんだか、私の知らないキャラクターで正直かわいくなかった。私も幼くて、「こんなのきらい」とか言って、ぽいと家の隅の方に投げてしまった。
そのときは知らなかったのだけど、おばあちゃんはかなり貧しかったらしい。だから、そんなプレゼントを買うお金も無理して準備していたということだ。それを思うと、申し訳ない気持ちになる。
子どもの私はそんなおばあちゃんの気持ちも知らず、その人形のことなんか忘れて遊んでいた。何日かして、夜に部屋から泣き声が聞こえてきた。鼻をすするような音がしていた。
「誰かいるの」
私が言っても誰も答えない。この状況は怖かったと思うのだけれど、小さい頃の行動力って今となっては理解を超えたものがある。そのとき私は泣き声の主を探そうと部屋を歩き回った。
そこで隅に人形がうずくまっていることに気が付いた。うずくまる、というか、私がそこに投げたのだけれど。その人形が泣いている。目から確かに涙が出ていて、ぐずぐず、という感じの音がしている。
私はそこでやっと人形のことを思い出した。それで、泣いている人形を見て怖くなって、でも謝りたい気持ちが強くなった。「ごめんなさい、ごめんなさい…」
このまま寝てしまったみたいで、お母さんに起こされた。そもそも夢だったのかもしれないのだけれど、人形には確かに泣いたような、涙の跡があった。お母さんにそれを説明しようとしたのだが、
「あんた、怖い夢でもみたんでしょう、あんたが夢見て泣いてたよ」
と言われただけ。
私はこれ以来、人形すべてが怖くなり、買うことができなくなった。それともう一つ、モノにも感情があるのかな、と思うようになった。そのせいもあって、いらない、と切り捨てることも、逆にほしい、と選び取ることもできなくなってしまったんだ。選ばれなかったモノが泣いているところ、考えちゃって。
「自分が優柔不断だから、その言い訳のためにそんなお話を考えたんだろ?面白いとは思うけど」
彼が言うと、まあ、そう思われても仕方ないよね、と苦笑いしつつ、
「今も、その人形、私の部屋にあってね。優しい顔をしているんだよ」
彼は渋い顔をしている。こういう非科学的な話を好まないタイプなのはわかっている。正しいことが好きな人だ。でも、この思い出は私の中では結構大切な話。私にとっては、間違いなく正しいこと。
「まあ、でも私、君を選んじゃったけどね」
あ、やっと嬉しそうな顔をしてくれた。
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