第12話 先生

自称霊能力のある小学校の頃の先生が話していたことで、子供を教え諭すための作り話だと思う。小学校の頃の自分は幼いなりに衝撃を受けたし、今の自分としても、信じられない、いや、信じたくない。


自殺が多い駅とか、自殺の名所があるけれども、それはなぜなのか、って。確か、命の大切さが授業のテーマだったのかな。誰かが叫んだ。「幽霊がいるから!そいつらのせいで呪われているんだ」

じゃあ幽霊って何だろう。先生は実は霊感があって、…見えるんだよ。それにあの正体も知っているんだ。別の誰かが叫んだ。「嘘つかないでくださいよ、お化けとか幽霊なんて作り話」先生は意味深長な表情を見せて、「ほとんどは作り話だろうけど、幽霊は確かに存在するよ」

笑い声と茶化す声が広がったけど、正直みんな怖いなと思っていた。それに先生が大真面目にこういう話をすること自体、不思議な感じだった。

「先生はこう考えているってだけでね、それぞれ考え方は違くても良いんだけど、」と前置きをした。「仮に自殺したとしても、死んでも、幽霊となって死んだ場所、例えば病院とかでさまよい続けるなんてことはない。だって、そんなの嫌でしょ、おかしいでしょ」

生徒たちは「確かに」ってうなずいた。

「そう、でも、病院で幽霊を見た、っていう話は本当に多い。理由はいくつかある。夜は確かに不気味だし、イメージが良くないから、つい見間違えたり思いこんだりする。そういう原因もある。だけど、実際にいるわけだよ、幽霊が」

「幽霊はいるの、いないの」まだまだ幼い生徒たちは混乱してきた。

「まあまあ。実際に幽霊はいる。でも、死んだ人の魂がさまよっているわけではない。さまよっているのは…人の思いだ」

生徒たちの頭にははてなマークがついている。先生はまだ難しいか、と思いつつ、優しい表情で続ける。

「例えば、まだ死にたくない、と思って亡くなった方は、その魂は天国に行くんだけれど、死にたくない、その気持ちだけが幽霊の姿としてさまようんだな。自殺の名所とかも、自殺しちゃう人はすごく苦しんでそこにたどり着いた。その苦しい気持ちとかが幽霊としてさまよい続ける。」

少しずつ分かってきた生徒たちは少し安心してきた。人の死をイメージするのは難しいけれど、どのように死んでも魂は天国に行くということ。幽霊の正体はつらい気持ちだということ。幽霊なんてそんなものなのか、たいして怖くない。

「でも、」

先生は話をさらに続けていく。自分が怖いと思ったのは、ここから。

「死んでもこの地に残り続ける、人の気持ちってすごいと思う。それだけ強い気持ちだった、ということなんだろうけど。人の気持ちは甘く見てはいけないんだよね、それだけ強いものだから。先生はこんな幽霊をみたことがあってね。」

大きなため息。もはや教えるというよりも一人語りとなってきた。「死にたいという気持ちが強いから自殺するんだろうけれど、死にたい、その気持ちだけが残ってできた幽霊だった。そいつは、何回も、ビルから飛び降り続けているんだ。魂が天国に行けても、その人のそのときの気持ちがきっと毎晩、何回も死に続けている。恐ろしい光景だった」

「結論。」一呼吸置く。「だから、君たちは毎日楽しく過ごしてほしい。つらい気持ちをため込まずに。命はすごい力があるから、逆にそういう怖いものも生み出してしまうんだ」

生徒たちは黙っていた。幼い想像力は破壊力があるもので、想像してしまったのだ。

今冷静に考えると、宗教的なうさん臭さもあるんだけど、死に続けている、その霊の姿がやっぱり怖くて、自殺はだめだな、という考え方につながっている。

もし本当だとしたら、だが、先生にはどんな景色が見えているんだろうか。

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